ID番号 | : | 00871 |
事件名 | : | 金員支払仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 中央観光バス事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 利益還元方式の賃金制をとる一年契約制の労働契約の締結を拒み、旧賃金制による賃金を支払われていたバス運転手らが、支給金額と利益還元方式による賃金額との差額分等の支払の仮処分を申請した事例。(申請却下) |
参照法条 | : | 労働基準法11条,93条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 賃金の計算方法 |
裁判年月日 | : | 1976年10月15日 |
裁判所名 | : | 大阪地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和51年 (ヨ) 1036 |
裁判結果 | : | |
出典 | : | 労働判例266号43頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 一般に賃金請求権は、労働契約に基づいて発生するものであるから、労働者が使用者に対して請求できるのは労働契約において約され、もしくは労働契約の内容となっている賃金のみであって、それ以外のものについて請求権を有しないことは当然というべきところ、申請人らと会社との間に締結されている労働契約(期間の定めのない労働契約である)においては、前記認定のとおり別紙(一)記載の方式によって算出した賃金を支給すべきことが約されているのであって、利益還元方式によって算出した賃金を支給すべきことを内容とする一年契約制の労働契約は、申請人らと会社との間においては締結されていないのであるから、申請人らとしては、法律上、右利益還元方式によって算出した額の賃金請求権、したがって前記差額分の賃金請求権を有するものではないというよりほかはない。 (中 略) なるほど労働契約においては、直接当事者間で明示的・黙示的に合意した事項のみがその内容をなすわけではなく、当事者間で合意が成立していない事項、ときには当事者間で成立している合意内容と相反する事項もまた、法規範ないし社会的規範の効力により、労働契約の内容とされることがありうることは、疑問の余地のないところである。しかしながら、労働契約の内容を直接に規律する効力の認められる右のような法規範ないし社会的規範として法律上明定されているのは、労働基準法中労働条件に関する基準を定めた部分(同法一三条)、就業規則中労働条件に関する基準を定めた部分(同法九三条)、労働協約中労働条件その他の労働者の待遇に関する基準を定めた部分(労働組合法一六条)のみであって、それ以外にこのような効力の認められるものは見当らない。ところが本件の場合、申請人らと会社との間で労働契約を締結した当時、利益還元方式によって算出される賃金を支給する旨を定めた就業規則もしくは労働協約が存在していなかったことは前記認定の事実関係から明らかであり、また、前認定のように会社が全乗務員に周知せしめるために「入社案内」を鶴見車庫内に掲示し、その後申請人らを除くすべての乗務員が利益還元方式に移行したからといって、右のごとき就業規則が制定され労働協約が締結された場合と同様の規範的効力、さらにはそれ以上に、既存の労働契約の内容まで改変するほどの高度の規範的効力を有する社会的規範が成立するにいたったものと認めることはとうていできないから、申請人らの前記主張は採用するに由ないといわざるをえない。 さらに申請人らは、利益還元方式による賃金を支給する旨の黙示の合意が申請人らと会社との間に成立したと主張しているけれども、いうまでもなく黙示の合意とは、明示の合意は存在しないけれども、経験則に照らし諸般の情況からみて合意があったものと推認される場合を指すものであり、かつ、本件の場合、会社側において、申請人らとの労働契約を従前どおり期間の定めのない契約として継続させたまま、ただ賃金算定方式のみを利益還元方式に切り換えても差しつかえないとの意向を有していたものとは、前認定の事実関係に徴してもとうてい考えられないから、右黙示の合意の主張も採用することができない。 |