ID番号 | : | 00877 |
事件名 | : | 賃金支払請求控訴、同附帯控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 第一交通事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 和解条項の遵守、春闘および団交要求の誠実な検討を求めて幅一〇センチメートルの腕章を着用し就労しようとした組合員たるタクシー運転手らが就労を拒否されたのに対し、拒否期間中の賃金等の支払を求めた事件の控訴審。(控訴、付帯控訴棄却、賃金請求のみ認容) |
参照法条 | : | 労働基準法24条1項 民法413条,536条2項 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / リボン・ハチマキ等着用と賃金請求権 |
裁判年月日 | : | 1983年7月28日 |
裁判所名 | : | 福岡高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和56年 (ネ) 695 昭和57年 (ネ) 104 |
裁判結果 | : | 棄却(上告) |
出典 | : | 時報1104号141頁/タイムズ509号214頁/労経速報1173号3頁/労働判例422号58頁 |
審級関係 | : | 一審/00253/大分地/昭56.11.11/昭和54年(ワ)532号 |
評釈論文 | : | 菅野和夫・季刊実務民事法7号212頁 |
判決理由 | : | 本件腕章は、その着用によって直接現実の障害を生じないとしても、労働それ自体にとっては不必要なものであり、その意味で、労務の給付方法を規律している控訴人の前記就業規則中の服装規定に抵触し、また、就労時間中の職務専念義務から導かれる組合活動禁止の原則にも抵触するといわざるを得ないから、被控訴人らが右腕章を着用したままで就労すべきことを申し入れたことをもっては、これを雇用契約上債務の本旨に従った履行の提供であると解することはできない。しかしながら、被控訴人らが提供を申し入れた労務の方法が腕章着用という点では不完全なものであるにせよ、ともかくも雇用契約における本来の債務である就労が申し入れられたのであるから、かかる場合には、就労の申し入れが債務の本旨に従った労務の提供とはいえないということから、直ちに控訴人において労務の受領を拒否することが正当化され、受領遅滞の責を負わないと解すべきではなく、労務の受領拒否が正当であるか否かは、その背景をなす労使関係、腕章着用の目的及び態様、それが職務の遂行に及ぼす影響の程度、労使双方の受ける利害得失等の諸事情に照らし、衡平の見地からこれを決すべきものである。 (中 略) かようにみてくると、被控訴人らが敢て本件腕章を着用して就労を申し入れた目的は、控訴人の前記不当な差別や不誠実な態度に抗議することにあったのであるから、控訴人が被控訴人ら組合側に対し、誠意をもって早急に右の差別等を改める姿勢を示したならば、組合をして、就労時に腕章を着用するという戦術を変えさせることができたと考えられるし、また、控訴人において右労務の提供を一応受け入れたうえで、労務管理の面で規制・是正するという方法をとる余地もあり得たと認められるところ、従前からの控訴人側の前記不当な対応に照らすと、控訴人としては、被控訴人らの右就労の申入れが不完全であることのみを責めてその受領を拒否すべきではなく、むしろ自ら右の如き配慮をして、右労務を受領し、又は受領拒否の態度を改めるべき信義則上の義務があったものと解するのが相当である。しかるに、控訴人は、かかる配慮をすることなく、右労務の受領を拒否し、その態度を変えようとしなかったものであり、その結果として、被控訴人らは昭和五四年五月三日から同年六月一四日まで労務に服する債務を履行することができなかったのであるから、被控訴人らの就労申入れがなされたにも拘らず、これにつき債権者である控訴人の側に受領遅滞が存し、その責に帰すべき事由としての就労拒否により履行不能を生じた場合にあたると解せられ、結局、被控訴人らは民法五三六条二項の規定により、右就労不能期間中の賃金請求権を失わないことになる。 |