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ID番号 00915
事件名 委員会救済命令取消請求事件
いわゆる事件名 第二鳩タクシー事件
争点
事案概要  組合員の解雇を不当労働行為として断定し、タクシー会社に対して原職復帰と賃金相当額のバックペイを命じた地方労働委員会の救済命令が、中間収入をバックペイから控除しないのは不当だとされ、その取消が求められた事例。
参照法条 労働組合法7条,27条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / バックペイと中間収入の控除
裁判年月日 1977年2月23日
裁判所名 最高大
裁判形式 判決
事件番号 昭和45年 (行ツ) 60 
昭和45年 (行ツ) 61 
裁判結果 棄却
出典 民集31巻1号93頁/時報840号28頁/タイムズ345号159頁/裁判所時報708号1頁/裁判集民120号135頁/官報昭和52年3月4日15043号16頁
審級関係 控訴審/00903/東京高/昭45. 2.10/昭和43年(行コ)4号
評釈論文 岸井貞男・民商法雑誌77巻4号589頁/古西信夫・季刊労働法104号124頁/荒木誠之・労働判例百選<第四版>〔別冊ジュリスト72号〕258頁/高田正昭・法律のひろば30巻5号40頁/山口浩一郎・時の法令966号18頁/市毛景吉・法律論叢50巻2号139頁/宍戸達徳・法曹時報32巻3号447頁/秋田成就・昭和52年度重要判例解説〔ジュリスト666号〕206頁/秋田成就・労働判例268号4頁/菅野和夫・法学協会雑誌96巻4号507頁/西川美数ほか・日本労働協会雑誌220号36頁/石川吉右衛門・ジュリスト636号102頁/石田省三郎・労働判例272号14頁/川口実・労働法の判例〔ジュリスト増刊〕168頁/浅井清信・竜谷法学10巻2号92頁/東城守一・ジュリスト636号112頁/道幸哲也・判例評論221号40頁/平賀健太・判例時報863号3頁/平賀健太・判例時報864号10頁/林修三・時の法令981号51頁/和田良一・ジュリスト636号117頁/脇田滋・日本労働法学会誌50号172頁
判決理由  本件における問題は、不当労働行為により解雇された労働者がその後原職に復帰するまでの間において他で就労して収入を得た場合に、労働委員会は、原職復帰とともにバックペイを命ずるにあたって、解雇期間中の得べかりし賃金相当額から右の中間収入の額を控除しなければならないかどうか、ということである。そこで考えるのに、
 (一)まず、右解雇によって被解雇者個人が受ける経済的被害の面をみると、被解雇者は、解雇によって従前の使用者の下で就労して賃金の支払いを受けるという雇用関係上の利益を喪失する点において個人的な被害を受けるのであるが、他面、右使用者の下における就労から解放され、自己の労働力を自由に利用しうる状況に置かれるわけであるから、他に就職して収入を得た場合には、それが従前の就労からの解放によって可能となった労働力の使用の対価であると認められる限り、解雇による経済上の不利益はその限度において償われたものと考えられ、したがって、バックペイとしてその既に償われた部分までの支払いを命ずることは、個人的な経済的被害の救済の観点からする限りは、実害の回復以上のものを使用者に要求するものとして救済の範囲を逸脱するものと解される。もっとも、この観点からみる場合においても、第一審判決の指摘するように、解雇と中間収入の獲得との間に前述のような因果関係があるということだけから直ちに、右の中間収入の全額について経済的不利益の回復があったものとみるべきではなく、労務の性質及び内容もまた労働者にとって重要な意味をもつものであることは明らかであるから、例えば、被解雇者に中間収入をもたらした労務が、従前の労務と比較して、より重い精神的、肉体的負担を伴うようなものであるとき、これを無視して機械的に中間収入の額をそのまま控除することは、被害の救済としては合理性を欠くことになるといわなければならない。
 (二)次に、右解雇が当該使用者の事業所における組合活動一般に対して与える侵害の面をみると、前述のように、この侵害は、当該労働者の解雇により、労働者らの組合活動意思が萎縮し、そのため組合活動一般に対して制約的効果が及ぶことにより生ずるものであるから、このような効果を除去するためには、解雇による被解雇者に対する加害が結局において加害としての効果をもちえなかったとみられるような事実上の結果を形成する必要があるものというべきである。中間収入の控除の要否とその金額の決定も、右のような見地においてすべきであるが、組合活動一般に対する制約的効果は、当該労働者が解雇によって現実に受ける打撃の軽重と密接な関係をもち、再就職の難易、就職先における労務の性質、内容及び賃金額の多少等によってもおのずから異ならざるをえないものであるから、組合活動一般に対する侵害の除去という観点から中間収入控除の要否及びその金額を決定するにあたっては、これらの諸点を勘案し、組合活動一般について生じた侵害の程度に応じ合理的に必要かつ適切と認められる救済措置を定めなければならないのである。
 上述したところからすれば、不当労働行為による解雇に対する救済命令においてはバックペイの支払命令が不可欠なものであり、このことは解雇期間中被解雇者に中間収入があったかどうかによって影響を受けるものではないとする見解は、是認することができず、そのような見解を前提とし、中間収入の有無を全く考慮せず、常に、解雇期間中における得べかりし賃金相当額全額の支払いを命ずることは、被害の救済としては合理性を欠くものといわなければならない。
 (中 略)
 しかるに、上告人は、本件バックペイ命令において右中間収入の控除を全く不要とすることにつき特段の理由を具体的に示すところがなく、また、本件にあらわれた資料によっても、このような理由を見出すことができないのである。そうである以上、本件バックペイ命令は、結局において、上告人に認められた裁量権の合理的な行使の限度を超えたものといわざるをえない。