全 情 報

ID番号 00934
事件名 仮処分申請事件
いわゆる事件名 扇興運輸事件
争点
事案概要  関連企業での争議のため(運送)業務量が激減したことにより休業した場合につき、従業員から休業手当の支払を請求した事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法26条
体系項目 賃金(民事) / 休業手当 / 休業手当の意義
裁判年月日 1962年11月27日
裁判所名 熊本地八代支
裁判形式 決定
事件番号 昭和37年 (ヨ) 53 
裁判結果
出典 労働民例集13巻6号1126頁
審級関係
評釈論文 石川吉右衛門・ジュリスト315号111頁
判決理由  労働基準法第二十六条の「使用者の責に帰すべき事由」とは、同規定が労働者保護のためその最低生活を保障しようとする趣旨にあり、かつ企業経営の利益が使用者に帰属することに対応して企業経営上の障碍による損失も使用者が負担すべきであるという衡平の観念よりすれば、民法の解釈とされている使用者の故意過失又は信義則上右と同一視すべき事由より広義に理解しなければならないものであって、企業経営者として不可抗力を主張しえないすべての場合をも含むと解すべく、したがって、経営政策上の事由や経営障碍を理由とする休業も使用者の帰責事由となる。債務者会社が本件休業に入るに至ったのは、その運輸業務を担当していたA会社水俣工場が争議のため生産業務が一時停止ないし縮少したことにともない業務が減少して経営障碍を惹起したことによることは明らかであるが、関連企業における業務の変動を原因とする経営障碍の場合と雖も、企業経営者としては直ちに不可抗力をもって主張しえず、客観的に見て通常なすべきあらゆる手段を尽したと認める場合にのみ休業手当の支払義務を免れうると解するのが相当である。債務者会社水俣支店はA会社水俣工場の運輸業務を担当しているがそれが右水俣支店の業務のすべてではないのであり、本件休業に入った当時はむしろ右水俣工場の生産業務は漸次増加しようとする時期に当っていたのであり、債務者会社が本件休業を防止しようとしてなしたと認められる各措置ではいまだ使用者の帰責事由を免れさすに不充分であると考える。就中債務者会社は、A会社水俣工場がB旧労組の支援する一般労組扇興支部に所属する選定者らの右工場における就業を認めないため選定者らに対し本件休業をなしたもので、債務者会社としては已む得ないと強調しているが、右のごとき事由があったとしても、前記説示の趣旨より休業手当の支払義務を免れないと考える。