全 情 報

ID番号 00946
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 ジャード社事件
争点
事案概要  臨時賞与として自社株式の支給を約した会社に対して、株式の額面相当額の金員の支払が求められた事例。(請求一部認容)
参照法条 労働基準法11条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の範囲
裁判年月日 1978年2月23日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ワ) 9268 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例293号52頁/労経速報981号10頁
審級関係
評釈論文 高木紘一・労働判例299号4頁
判決理由  成程、愛社精神の涵養、従業員の定着等を図る目的で従業員に自社株を与える際、従業員に新株を引受けさせ新株払込金相当額の臨時賞与を従来の賞与に上積みして支給するなどの便宜的手続がとられることもあり、また一応原告らには夏一、二か月分、冬二、三か月分の現金賞与が支給されていることは前示のとおりである。
 しかし、被告Y会社は昭和四九年一二月一三日付書面をもって各従業員に対し、同年暮の賞与は過去六か月間の勤務成績を査定し、その貢献度に応じて支給するもので更に今後四半期毎に一定割合の利益を評価基準に従って配分する旨明らかにして、一率支給部分のほかに査定方式採用による労働の公正な評価を約しており、過渡的とはいえ本件株式もその一環として同様の基準を前提として支給されたということができるうえ、査定対象期間の被告Y会社の売上げ増加は原告の大阪営業所長としての手腕、寄与にによるところが大きく、とくに管理職たる原告においては本件株式部分を除いては他にその労働が報われる部分はなかったので被告Y会社も支給を余儀なくされたものであり、同営業所従業員であるA、Bが同時に三か月分の株式支給を約されていることを考慮すると原告に支給された本件株式がその労働の対償として他従業員と均衡を失するものとはいえない。
 後記のとおり被告Y会社の約した株式が任意的、恩恵的なものであったとしても、被告Y会社は更に本件通知書をもって月給一〇か月分一七二万五、〇〇〇円の支給を前提として所得税を控除した一五〇万円の本件株式を賞与として支給する旨確約したから原告は被告Y会社に対して雇用契約に基く具体的な賞与請求権を取得したものであり、以後、原告が本件株式の支給を当然の前提として雇用契約を継続し、稼働することも考慮すれば、本件株式は使用従属関係のもとでの原告の労働に対する対償ということができる。
 一方、被告らが従業員持株制度を実効あらしめるために、取得するか否かについての従業員の意思の考慮、取得した株式の譲渡の可否、制限、退職時の株式の換金方法などの諸点について慎重に検討したとはいえず、かえって原告の意思に反して本件株式の支給を約したうえ、支給せず、労働意欲を喪失させる結果を招いたのであるから被告Y会社が真実従業員持株制度の趣旨を理解し、実現しようとしていたかは疑問といわねばならない。
 以上のとおり被告Y会社の原告に対する本件通知の内容、本件株式の支給基準の有無、原告の労働に対する対償との関連性など総合考慮すると、本件通知により被告Y会社は原告に対し、昭和四九年暮の賞与として全従業員一率支給分のほかに月給一〇か月分一七二万五、〇〇〇円の支給を約し、源泉徴収分を差引いた一五〇万円の支払いにかえて本件株式を昭和五〇年四月頃までに支給する旨約したもので、本件株式は労働基準法一一条の労働の対償と解されるから本件株式により支給するとの部分は同法二四条一項の実物給与の禁止に反し、無効であり、原告は被告Y会社に対し、本件通知の日たる昭和四九年一二月一三日に賞与金一五〇万円の請求権を取得したということができる。