ID番号 | : | 00969 |
事件名 | : | 給与支払請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 東京都公立学校教職員事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 給与支払日以後原告が欠勤したために賃金が過払となったので被告が翌月分の給与から過払分を控除したことに対し、原告が被告の行為は労働基準法二四条に違反するとして控除された金額を請求した事例。(認容) |
参照法条 | : | 労働基準法24条 民法624条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 過払賃金の調整 |
裁判年月日 | : | 1966年12月27日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和35年 (行) 75 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 時報474号47頁/タイムズ202号145頁/教職員人事関係裁判例集5号249頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 賃金は労働者がその生活を支える財源として日常必要とするものであるから、これを労働者に確実に受領させることにより、その生活に不安なからしめることは労働政策上きわめて必要なことであって、労基法二四条一項がその本文において賃金の直接全額払の原則を定め、賃金の一部控除を同項但書による例外の場合を除き、許さないものとし、その違反者に対しては刑罰をもって臨み、労働者の生活保護の徹底を期しているゆえんである。ところで、毎賃金期間の賃金がその期間中途の支払日に支払われたのに、その後に賃金債権が発生しなかったときは、支払われた賃金の一部は当然過払となり、また、支払日前に賃金債権が発生しなかったのに、それが支払日直前であったこと等、賃金計算を事実上不可能ならしめる事由により、賃金の全額が支払われたときは、その賃金の一部は当初から過払であるが、このような事象は日常しばしば起り得るところである。かような場合、使用者が過払賃金分回収のため他の賃金期間の賃金から控除することは継続的な労働契約上の賃金相互間の調整的ないし精算的な決済方法として便宜であるに違いない。それゆえ、労基法二四条一項も便宜な決済方法である賃金の一部控除をいかなる場合にも認めないものではなく、但書を設けて、それが使用者の優越的な立場のみから行われることにより労働者の生活に不安を与えることのないような一定の場合には、相殺その他の法律上の原因に基き賃金の一部を控除して支払うことを認めているのである。したがって、ある賃金期間の賃金過払分の決済方法たる他の賃金期間の賃金からの控除は賃金控除に関する法令の定の存する場合のほかは、使用者において労働組合または労働者の代表者との間で書面による賃金控除に関する協定を締結したうえで行うべきである。(もし、かような賃金控除に関する法令も協定も存しない場合には、賃金控除の便法に頼るよりまえに、初めから賃金の過払が生じることを避ける方法として毎賃金期間の賃金支払日を期間経過後に定めることも可能である(民法六二四条、労基法二四条二項参照))。そうでない限り、たとえ賃金過払の原因が賃金前払制の採用その他やむを得ない事由に存したとしても、さらには、その控除が過払の生じた賃金期間に接近する賃金期間の賃金から行われるものであり、その額において、支払額に比し僅少であり、また事前に労働者の予知し得るものであったとしても、その賃金控除は、なお労働者の当該賃金期間の生活に不安を与えるものとして、労基法二四条一項本文の規定に違反するものというべきである。このことは使用者が賃金支払日前に弁済期の到来する不法行為による損害賠償請求権その他過払賃金返還以外の債権に基く弁済金を賃金支払日に賃金から控除することが労働者に予告したうえであっても許されないのとなんら異るところがない。そうだとすれば、本件においても、前記のような法令または協定のない限り、賃金の控除は、労働基準法二四条一項本文の規定に違反し、許されないものといわなければならない。被告の右主張は失当である。 |