全 情 報

ID番号 00970
事件名 給付返還義務不存在確認本訴請求、不当利得返還反訴請求控訴事件
いわゆる事件名 東京教育委員会事件
争点
事案概要  既に支払った賃金のうち過払分を後の賃金より減額控除されたため、労働基準法二四条に違反する行為であるとして右減額分の支払を求めた事例。(一審 認容、二審 原判決取消差戻)
参照法条 労働基準法24条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 過払賃金の調整
裁判年月日 1967年3月1日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ネ) 2746 
裁判結果
出典 行裁例集18巻3号177頁/教職員人事関係裁判例集5号323頁
審級関係 一審/00961/東京地/昭37.10.31/昭和34年(行)3号
評釈論文
判決理由  労働基準法第二四条第一項本文の規定は、使用者において労働の賃金債権に対し、労働者に対して有する債権を以て相殺することも許されないとの趣旨を包含するものと解するのが相当であり(最高裁大法廷昭和三六年五月三一日判決、最高民集一五巻五号一四八二貢参照)、しかもこのことは、原則としてその反対債権の発生原因のいかんを問わないと解すべきである。しかしながら本件におけるように給与過払による不当利得返還請求権を自働債権とする相殺も、例外なく一切許されないと解すべきか否かについては、なお検討を要するといわなければならない。何故ならこのような相殺は、各月毎に発生する給与債権の調整ないし清算としての意義を有する点で、給与と全く関係のない他の債権によってなされる相殺の場合とはいささかその意義を異にするし、また本件におけるように毎月一定期日を定めてその月の勤務に対する給与が支払われる場合においては、右期日が月の末日でない限り常に給与の一部は前払としての性格を持つこととなるのであるが、支払期日後に減額事由が発生した場合には、当然その月の給与から減額することは不可能となる訳であるから、このような場合にも一切相殺を許さないとすることは、減額事由の発生時期の前後という偶然の事情によって、労働者が過払給与の任意の返還に応じない場合に、使用者に対し著しい煩わしさを避け得ないものとすることになり、不合理でもあるからである。そうして当裁判所は以上の観点から、給与過払による不当利得返還請求権を自働債権とする相殺の場合においては、過払給与を当該支払期日における給与から減額することが社会通念上不可能であり、かつ右給与過払後最初に到来した減額をなし得べき機会に減額がなされた場合に限って、本件におけるように毎月一回給与が支払われる場合においては、せいぜい給与過払のあった月の翌月に限って、例外的にその月の給与からの減額すなわち相殺が許されるものと解する。この場合においても、民法第五一〇条、民事訴訟法第六一八条により、原則として総額の四分の一を超える部分については相殺を以て対抗することができないとの制限に服することはもちろんである。以上のように解しても労働者の人身拘束の防止ないし労働者の経済的保証という労働基準法第二四条第一項の趣旨にもとる虞はないものと考えられる。