ID番号 | : | 00980 |
事件名 | : | 解雇無効等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 東京保健生活協同組合事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 週二回の診療と宿直の業務に従事する医師が、医療器具を壊したり物品を持ち帰ったりしたこと等を理由として懲戒解雇されたので雇用契約上の権利を有することの確認、賃金の支払等を請求した事例。(請求棄却) |
参照法条 | : | 労働基準法24条、89条1項9号 民法505条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 職務上の不正行為 |
裁判年月日 | : | 1972年1月27日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和45年 (ワ) 6261 |
裁判結果 | : | 棄却(控訴) |
出典 | : | 時報667号89頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 渡辺章・労働判例144号9頁 |
判決理由 | : | 〔賃金―賃金の支払い原則―全額払〕 賃金債権と使用者が労働者に対して有する債権とを、労使間の合意によって相殺すること(相殺予約ないし相殺契約)は、それが労働者の完全な自由意思によるものである限り、労働基準法第二四条第一項の定める賃金の全額払の規定によって禁止されるものではないと解される。 右六月三日の原告の意思表示(相殺予約)が強迫によるものであるとの原告の主張に符合する原告本人尋問の結果は、《証拠略》と対比して措信し難い。また右相殺予約締結の際、医師である原告が、在職中であるために事実上自由意思を抑圧されていたということも証拠上全くうかがわれないし、そのようなことは考えられない。右予約は原告の完全な自由意思によるものと認められる。 したがって、被告生協が、相殺予約に基づく権利を行使して金二五、〇〇〇円を六月分給与から控除したことは、労働基準法第二四条第一項の賃金の全額払の原則に反するものではない。 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―職務上の不正行為〕 しかし、原告の前認定の行為のうち、血圧計、聴診器およびロッカーの鍵の件は第六号の「故意により、什器備品を棄却した場合」に、水道の排水口の件は第六号にいう「故意により、什器備品に準ずるものを棄却した場合」に準ずる程度の不都合な行為のあった者(第七号)に、玄関の鍵(原告がこれを私物にしたかどうかは明らかではないが、少くとも持出したことは明らかである。)の件は第五号にいう「許可なく院所の物品をもち出し、私物にした者」に準ずる程度の不都合な行為のあった者(第七号)にそれぞれ該当するものというべきである。 (四)解雇の相当性 右の就業規則に該当する行為は、児戯に類するものであり、これによる物質的損害も取るに足りないと思われる。しかし、これらは異常な行動としかいいようがないものであって、患者の生命、身体を預る重大な使命を有する医師としては、その適格性を疑わせるに十分である。 したがって、被告生協がこれらを理由に原告を懲戒解雇したのは不相当とは認められず、解雇権の濫用とはいい難い。 |