全 情 報

ID番号 00983
事件名 給与請求事件
いわゆる事件名 福岡県教職員組合事件
争点
事案概要  公立学校の教員に対して昭和三三年五月二一日に支給された給与中に各一日分の給与の過払があったのを同年八月二一日に支払われるべき給与から減額したのに対して、右減額を不当としてカット分を請求した事例。
参照法条 労働基準法24条1項
民法505条,703条
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 過払賃金の調整
裁判年月日 1975年3月6日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (オ) 569 
裁判結果 棄却
出典 時報778号100頁/裁判集民114号299頁
審級関係 控訴審/00978/福岡高/昭46. 3.31/昭和44年(ネ)342号
評釈論文
判決理由  右減額のような、賃金過払による不当利得返還請求権を自働債権とし、その後に支払われる賃金の支払請求権を受働債権としてする相殺は、過払のあった時期と賃金の清算調整の実を失わない程度に合理的に接着した時期においてなされ、しかも、その金額、方法等においても労働者の経済生活の安定をおびやかすおそれのないものである場合にかぎり、労働基準法二四条一項本文による制限の例外として許されるものと解するのが相当であり、しかも、このような相殺を許容すべき例外的な場合に当たるか否かの判断にあたっては、賃金全額が確実に労働者の手に渡ることを保障しようとする右規定の法意を害することのないよう、慎重な配慮と厳格な態度をもって臨むべきものであり、みだりに右例外の範囲を拡張することは、厳につつしまなければならない(当裁判所昭和四〇年(行ツ)第九二号同四四年一二月一八日第一小法廷判決・民集二三巻一二号二四九五頁、同昭和四二年(行ツ)第六一号同四五年一〇月三〇日第二小法廷判決・民集二四巻一一号一六九三頁参照)。
 原審は、右と同旨の見解に立って、福岡県教育委員会は、五月末頃には既に欠勤の実態を把握していたのであって、減額すべき金額の点からみてもこれを翌六月分の給与から減額することが可能であったのに、七月下旬にいたって減額を決定し、八月上旬頃その旨を福岡県教職員組合に通知したうえ、本件減額を行ったものであり、その遅延した主たる理由は、減額に反対する福岡県教職員組合の圧力のもとに、福岡県教育委員会が、減額をすることの法律上の可否、根拠等の調査研究をしながら、当時同種事案をかかえていた東京都の動向を見守っていたところにあるのであるから、本件相殺は、これをした時期の点においていまだ例外的に許容される場合に該当しないとしているのであって、その認定判断は、挙示の証拠に照らし、正当として首肯することができ、その過程に所論の違法はない。