判決理由 |
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三、控訴人らは、被控訴会社が賃金カットを行なった時間(原判決添付別紙第三記載の各時間)中も被控訴会社に出勤し、労務を提供した。控訴人らがその時間中現実に労働に従事しなかったのは、被控訴人において適切な作業指示をしなかったためであるから、被控訴人の受領遅滞にほかならず、控訴人らが賃金請求権を失うべきいわれはない、と主張するので検討するに、控訴人らはいずれも本件部分ストを行なった労働組合の組合員であるから、控訴人らは、その所属組合の実施した部分ストに因り、関連職種たる自分らの本来の仕事がなくなり、就労不能となることを予測しながらあえて出勤していたものであって、真実就労の意思を有していないのにかかわらず、それがあるように擬装して賃金請求権を確保し、以て使用者たる被控訴会社に経済的打撃を与える目的だけのために出勤していたように認められないでもないけれども、右出勤中の控訴人らが、被控訴会社から指示された代替業務に就くことを拒否した事実を認めうる証拠はないばかりでなく、本件部分ストにより、本来従事すべき仕事がなくなった後においても控訴人X1、同X2、同X3、同X4、同X5、同X6、同X7らは、被控訴会社から指示された他の作業に従事し、あるいは被控訴会社の指示に従い同会社の実施した健康診断を受けた事実があり、これらに対してはそれぞれ賃金が支払われていることはいずれも被控訴人の自認するところであるから、控訴人らに就労の意思がなかったと認めるのは相当ではない。しかしながら、労働契約に基く労働者の債務の内容は、右契約もしくは慣行によって定められた労務を供給すること、換言すれば、継続して労務を提供し、定められた作業の仕組に従った作業に従事することであるから、控訴人らが就労の意思をもって労働契約に定められた職場に出勤したからといっても、ただそれだけで直ちに右債務につき履行があったものということはできない。控訴人らは、労務者が労務の提供をなし、その職場に編入された事実さえあれば、履行があったものというべきであると主張するけれども、控訴人ら主張の時間につき控訴人らが被控訴会社に対して負担する債務が履行不能となったものと認めるべきことを前記のとおりである以上、右主張は採用できない。 |