全 情 報

ID番号 01017
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 ノースウエスト・エアラインズ・インコーポレイテッド事件
争点
事案概要  協約の有効期間中会社・組合いずれの側も争議行為をしない旨の協約の満了時二週間前に次期協約事項を目的としてなされた争議行為に対して行なわれたロックアウトおよび腕章着用者に対する就労拒絶につき労働者が右ロックアウトおよび就労拒絶を不当として賃金を請求した事例。
参照法条 民法624条
労働基準法3章
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / ロックアウトと賃金請求権
裁判年月日 1975年7月17日
裁判所名 最高一小
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (オ) 267 
裁判結果 棄却
出典 裁判集民115号465頁
審級関係
評釈論文
判決理由  本件において、上告会社は、その日本支社の従業員をもって組織する労働組合(以下「組合」という)が新たな労働協約の締結や賃上要求等に関して争議行為を開始したところ、組合員であった被上告人及び別紙選定者目録記載の選定者らに対して順次にロックアウトを実施し、同人らの就労を拒否したものであるが、原審は、右ロックアウトに至るまでの団体交渉及び争議の経過、組合のした争議行為の性格・手段・方法、右争議行為によって上告会社の被る損害の程度等に関する事実を認定したうえ、これらの事実によれば、本件ロックアウトは、組合の平和義務違反の争議が開始されたあとをうけて一見受け身の形で行われているが、その実質において組合側の焦りに便乗藉口した嫌いがないとはいえず、むしろ、上告会社は、組合の争議行為に対処するための措置に腐心するよりは、積極的に組合員を職場から排除し、代替者として日常業務を行わせようとして、組合の争議行為が開始されるや時を移さず進んでロックアウトの途を選んだものであり、この間に組合側の要求事項につき上告会社に有利な解決を図ることを目的としていたものであるとし、結局、本件ロックアウトは先制的・攻撃的であるに近いと判断しているのであって、原審の右認定判断は、原判決挙示の証拠関係に照らし、すべて正当として是認することができる。このような事実関係のもとにおいては、本件ロックアウトが、衡平の見地から見て、労働者側の争議行為に対する対抗防衛手段として相当性を有するものと認めることは困難であり、これを正当な争議行為ということはできない。それゆえ、上告会社は被上告人及び選定者らに対しその間の賃金支払義務を免れないとした原判決は、その結論において正当である。
 (中 略)
 労働者の提供する労務の受領を集団的に拒否するいわゆるロックアウト(作業所閉鎖)は、使用者の争議行為の一態様として行われるものであるから、それが正当な争議行為として是認されるかどうか、換言すれば、使用者が一般市民法による制約から離れて右のような労務の受領拒否をすることができるかどうかも、右に述べたところに従い、個々の具体的な労働争議における労使間の交渉態度、交渉経過、組合側の争議行為の態様、それによって使用者側の受ける打撃の程度等に関する具体的諸事情に照らし、衡平の見地から見て労働者側の争議行為に対する対抗防衛に対抗防衛手段として相当と認められるかどうかによってこれを決すべく、このような相当性を認める場合には、使用者は正当な争議行為をしたものとして、右のロックアウト期間中における対象労働者に対する個別的労働契約上の賃金支払義務を免れることができるものというべきである。所論は、ロックアウトの正当性の要件を労働者の争議行為のそれよりも厳格に解することは憲法一四条に違反すると主張するが、使用者に対し労働者に対すると同様な意味において争議権を認めるべき合理的理由のないことは前記のとおりであり、憲法一四条が合理的理由に基づく差別を禁止するものでないことは、当裁判所の判例とするところである(昭和三八年(オ)第七三七号同四〇年七月二〇日大法廷判決・民集二〇巻六号一二一七頁)。