全 情 報

ID番号 01018
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 三菱重工長崎造船所事件
争点
事案概要  ストライキ期間中、家族手当を賃金から控除された組合員らが、控除額の支払を請求した事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法24条1項,37条
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 争議行為・組合活動と賃金請求権
裁判年月日 1975年9月18日
裁判所名 長崎地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ワ) 364 
裁判結果 認容
出典 労働判例247号59頁
審級関係
評釈論文
判決理由  ところで、労働者は使用者との間で労働契約を締結し、労働者としての地位を取得するものであるが、労働者に対する賃金には、日々の労働の対価としての交換的部分と、勤務時間や仕事量に関係なく労働者の地位にある間、固定的に支給される生活補助的、保障的部分とに大別され得ることは、夙に指摘論議され、昭和四〇年二月五日の原告摘示の最高裁第二小法廷判決もその趣意においてこれを認めているところである。
 そして、家族手当なるものは、正にこの生活補助的部分に該当し、日々の労働の対価的交換的部分に該当しないこと多言を要しない。
 それ故にこそ労働基準法三七条においても、労働の対価的交換的部分を基礎とする時間外労働における割増賃金の算定の基礎に、そうでない生活補助的賃金部分である家族手当などを含ませないことを明言しているものというべく、同条の法意からしても、扶養家族数に応じ、所定の金額を計算支給する、実質的生活補助的意義を有する家族手当については、ストライキ期間中の所謂ノーワーク、ノーペイの意義における賃金カットの対象とすべきでないとするのが、理の当然というべきである。
 もっとも労使対等の立場で締結された労働協約、またはこれに準ずる合意に基く別段の定めがなされ、これに基きストライキ期間中の家族手当につき賃金のカットを認容しているばあい、労働基準法が労働者保護の見地から労働条件の必要最低限度の基準を定め、労・使双方が対等の立場で労働条件を決定し、労・使関係の健全な育成をも目的としている同法の精神から、これをも無効なものとして取扱うべきでないと解すべきであるが、労働基準法所定の手続により作成された(即ち少なくとも必要最少限度その効力要件とされる周知手続をも経ている)就業規則であっても、これは結局使用者側において一方的に定め得るものであり、労・使双方対等の立場での協議交渉のうえ、合意に達した上で作成されるものでないから、前記労働協約またはこれに準ずる労・使双方の合意と同一に論ずることはできず、これら労働協約等において合意に達していない事項を就業規則に定めていたとしても法令に違反するばあい、当該部分は労働基準法九二条によって当然に無効といわねばならない。
 そこで、前掲最高裁判決において「労働協約など別段の定めあるばあい」として、賃金中生活補助的部分であっても、ストライキ期間中カットの対象となし得る除外例としていると目される判示部分は、労働法上の賃金の性格、労働基準法三七条の法意、および同法九二条を総合考慮して、前記のとおりに解するのが相当である。
 右事実によれば、選定者ら所属の訴外A労組と被告との間においては、ストライキ中の家族手当のカットにつき労働協約または労・使双方の合意もなく、かつまた労働基準法上の周知義務を欠き、実質就業規則としての効力をも否定される社員賃金細部取扱なるものを根拠として右カットを強行実施し、本件家族手当のカットをもなしたものであって、明白に違法・無効な行為であるといわざるを得ない(仮りにこの点実質的就業規則と同視し得たとしても、前記のとおり労働基準法三七条の法意に反し、同法九二条により当然に無効であるというべきである。)。
 結局、右社員賃金細部取扱中右カットを定める二五項は明白に違法・無効であるからこれに基き事実上数年に恒り一方的に実施されたストライキ期間中の家族手当のカットが、適法かつ有効な事実上の慣行として是認し得る理由全くなく、いわんや到底適法・有効な労働契約の一内容となり得る筈のものでもない。(仮りに労働契約の内容になっていたとしても明白に違法かつ無効である。)