ID番号 | : | 01021 |
事件名 | : | 損害賠償請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 高知県ハイヤータクシー労組事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 甲組合のピケッティングにより就労を妨害された乙組合の組合員が、甲組合を相手どってなした賃金相当額の損害賠償請求に関し、民法五三六条二項に基づき使用者に賃金支払義務があり、乙組合の組合員には損害はないとして請求を棄却した事例。 |
参照法条 | : | 民法536条1項,2項 労働組合法7条1号 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 一部スト・部分ストと賃金請求権 |
裁判年月日 | : | 1976年11月10日 |
裁判所名 | : | 高松高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和50年 (ネ) 42 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | 労働民例集27巻6号587頁 |
審級関係 | : | 一審/01015/高知地/昭50. 1.20/昭和46年(ワ)359号 |
評釈論文 | : | 高木紘一・労働判例280号22頁 |
判決理由 | : | 通常スト不参加組合員の就労不能の直接の原因がスト組合員のピケに阻止された場合においては、ピケが争議行為の一環として行われている以上は、一般に、労働者に争議権が保障されており、使用者としては、右争議行為の停止を強制する途がないことからいって、使用者には右スト不参加組合員の就労不能について故意、過失又は信義則上これと同視すべき事由があるということはできないから、使用者は、民法五三六条一項により、スト不参加組合員に対する賃金支払義務を免れるけれども、右ストが、使用者のスト組合に対する重大な労働協約違反とかスト組合員に対する不当労働行為等の背信的行為に起因し、その是正ないし撤回を要求して行われ、且つ、右のような使用者の行為によりスト決行の事態に至ることを予見し得たものと認むべき特別の事情がある場合には、スト不参加組合員の就労不能は、使用者の故意、過失又は信義則上これと同視し得る事由によるものと評価することができ、その限りにおいては、スト不参加組合員の就労不能は使用者の責に帰すべき事由による履行不能として、民法五三六条二項により、使用者は、スト不参加組合員に対する賃金支払義務を免れないものと解するのが相当である。このことは、ストの発生が前記のような使用者の背信的行為に起因し、その是正ないし撤回を目的としてストが行われた以上、当該ストの手段の一部であるピケが正当性の限界を逸脱して違法とされる場合であっても結論を異にするものではない。けだし、スト発生につき原因を与えた使用者に民法五三六条二項による帰責事由を認める限り、そのストの過程における争議手段の一部であるピケが違法であるとの一事により同条一項所定の危険負担における債権者としての免責事由を認めるのは相当でないからである。 (中略) 前記解雇は、右解雇に至る経緯に徴すると、訴外会社において、同被控訴人の組合活動を嫌悪し、分会長であることの故をもって同人を職場から排除することを決定的な動機としてなされたもので、不当労働行為に該当するものといわなければならない。そして、本件ストは右解雇を契機として被控訴組合の強い反撥を招き、同分会ではいち早く団交の席上解雇撤回を要求し、地方労働委員会が右解雇につき再考を促したにもかかわらずこれを拒否して懲戒解雇を強行したため発生したもので、訴外会社の右一連の行為に起因するものであることは明らかである。しかも、右のように、分会長である被控訴人大黒に対する懲戒解雇を強行すれば、これに反対する被控訴組合のスト決行に至る事態を惹起しかねないことは訴外会社としては十分予見し得たものというべきであるから、右ストの結果強力なピケに阻止されて、控訴人ほか従業員組合員のタクシー乗車業務が事実上不能となったのは、使用者である訴外会社の故意過失又は少くとも信義則上これと同視すべき事由によるものといわざるを得ない。したがって、訴外会社は、民法五三六条二項により、控訴人に対し、スト期間中、控訴人が平常通りタクシー乗車業務に従事したとすれば得たであろうとされる賃金の支払義務を免れないものというべきである。 |