全 情 報

ID番号 01025
事件名 賃金支払請求事件
いわゆる事件名 日本検数協会事件
争点
事案概要  就業時間中の組合活動に対する賃金カット率を欠務一日につき月額賃金の五〇分の一から二五分の一に変更した使用者に対して、二五分の一と五〇分の一の差額賃金の支払が求められた事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法24条1項
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 争議行為・組合活動と賃金請求権
裁判年月日 1978年8月9日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和46年 (ワ) 5596 
昭和48年 (ワ) 4380 
昭和50年 (ワ) 3069 
昭和52年 (ワ) 3282 
裁判結果 認容(控訴)
出典 労働民例集29巻4号590頁/時報912号99頁/タイムズ366号157頁/労経速報990号3頁/労働判例302号13頁
審級関係 控訴審/01038/大阪高/昭57. 8.18/昭和53年(ネ)1379号
評釈論文 岩村正彦・ジュリスト702号136頁/小嶌典明・季刊労働法110号139頁/池田英太郎・法と秩序9巻6号39頁/浜田冨士郎・昭和53年度重要判例解説〔ジュリスト693号〕239頁/本多淳亮・労働判例312号16頁
判決理由  2 五〇分の一カットを内容とする労働契約の成立について
 (一) 以上の事実によれば、被告大阪支部は昭和三六年末か昭和三七年初頃就業時間中の組合活動に従事する分会員につき、分会から業務配置の便宜方はかられたい旨の文書による届出があった場合において、配置の便宜がはかられないときは五〇分の一カットをする取扱いを実施したが、右実施にあたっては明確な目的意思をもってこれを行ない、また、分会及びこれに属する原告ら従業員においても、従来の取扱いより不利となったにかかわらずあえてこれを甘受したことが認められ、しかも、右取扱いは約八年間変わることなく実施され、労使間においてかかる取扱いがなされたことにつき何らの疑義がなく、当然のことと認識されてきたことが推認されるから、右取扱いは労使慣行(事実たる慣習)として黙示的に被告と個々の分会員の間の労働契約の内容となったと解するのが相当である。
 (中 略)
 1 前記のとおり、分会の届出に対し業務の配置の便宜がはかれない場合五〇分の一カットをなすという取扱いは、被告と従業員の間の労働契約の内容をなしていると認められる以上、これを変更するには特別の事情のない限り従業員全員の承諾がなければならないことは当然であるといわねばならない。
 (中 略)
 我国法秩序は社会全体の向上発展を根本理念とし、これに資するが故に私有財産、営業活動の自由を認めるが、他方で国民に実質的平等を保障するためその規制をはかり、労働基準法、労働組合法等各労働関係法規において労働者の保護につとめているのであり、かかる法律の理念に照らすと、労働者の唯一の生活の糧である賃金に関する事項を労働者の承諾なくその不利益に変更することは、それによる企業活動の合理化なくしては倒産も予想されるなど企業の存亡にかかわる事態が発生したというような特段の事情のない限り是認されないと解するのが相当であり、本件にあっては、被告の右措置は要するにその一方的な営利追及目的に支障をきたすが故に賃金に関する定めを労働者に不利益に変更しようとするものであって、信義則の一環である事情変更の原則の適用をみるべき場面ではないといわねばならない。
 (中 略)
 五 ところで、弁論の全趣旨によれば、本件賃金カットの行なわれた別表二△印記載の各日は、前記三種の取扱いのうち、分会から届出のあった分会員に対し業務配置の便宜のはかれない平時の場合にあたり、五〇分の一カットにとどめるべき場合であることが認められ、これに反する証拠はないから、被告の行なった本件賃金カットは右各日につき五〇分の一カットを越える部分につき違法であり、原告らはその給与差額部分の支給を受けうべきものといわねばならない。