ID番号 | : | 01081 |
事件名 | : | 賃金請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 中央プリント事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 前従業員に対して、前雇用主が、雇用期間中に貸付けていた金員のうち未払分の支払を請求した事例。一審、請求認容。当審、原判決変更(請求一部認容、一部棄却)。 |
参照法条 | : | 労働基準法11条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算 |
裁判年月日 | : | 1976年7月15日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和49年 (レ) 67 |
裁判結果 | : | 変更(上告) |
出典 | : | 時報848号87頁 |
審級関係 | : | 一審/渋谷簡/昭49. 3.12/昭和47年(ハ)300号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 労働者の使用者に対する退職金請求権は、就業規則または労働協約等によってその支給の条件が明確に規定されている場合には、退職金請求権は労働契約の内容となるものであるから、労働者は就業規則または労働協約等所定の条件が充足されるときには所定の退職金を請求しうる権利を取得すると解するのが相当である。これを本件についてみてみると、《証拠略》によれば、被控訴会社においては、その就業規則の第五三条の規定により退職従業員に対して退職金支給規定により退職金を支給することとなっていたこと、そして退職金支給規定には、〔1〕被控訴会社は共済法に基づく退職金共済制度に加入して従業員に退職金を支給すること(同規定第一条)、〔2〕被控訴会社は原則としてすべての従業員について事業団との間に退職金共済契約を締結すること(同規定第四条)、〔3〕右契約の掛金月額が具体的に規定され、したがって共済法の規定により支給されるべき退職金の額が決定されうること(同規定第三条、第五条)とそれぞれ規定されていることを認めることができ、また、《証拠略》を総合すれば、控訴人は、昭和四四年五月二〇日被控訴会社に入社し、同四六年四月一〇日任意に退職したもの(在職期間二三か月余)であり、かつ、被控訴会社の顧問或いは嘱託等の前記退職金支給規定第二条所定の退職金受給資格を有しない者に該当するものではないことを認めることができる。そして、右に認定した事実によれば、被控訴会社においては就業規則及びこれに基づく退職金支給規定により退職金の支給条件が明確に定められていること及び控訴人は右の支給条件を充足していることを認めることができ、したがって、控訴人は被控訴会社に対し、後記(2)の額の退職金請求権を有するものというべきである。 (中 略) 前掲甲第三号証の退職金支給規定の第一条及び第三条によれば、被控訴会社は共済法に基づく退職金共済制度に加入し、退職金の額、支給範囲及び支給方法は事業団との退職金共済契約約款の定めるところによるとされており、そして共済法によれば退職金は事業団から被共済者たる従業員に支払われることとなっていることを認めることができる。しかしながら、右の事実から被控訴会社の従業員が所定の要件に該当するときには事業団に対し退職金請求権を有することを認めることはできるが、このことから直ちに従業員が使用者に対し退職金請求権を有しないということはできないと解すべきである。けだし、退職金は賃金の後払たる法的性質をも有するものと解すべきであるから、本来使用者より従業員に支払われるべきものであり、本件のように使用者が退職金共済制度に加入したとしても、それは使用者の退職金の支払を確実ならしめ、かつ、退職金支払事務の便宜等を図るため右の制度を利用しているものというべきであるから、そのことによって従業員の使用者に対する退職金請求権に消長を来すべき合理的根拠はなく、また前記の退職金支給規定の各規定も控訴人の被控訴会社に対する退職金請求権を否定する趣旨とみることもできないからである(なお、同規定第八条参照)。そして、右のように解したとしても、使用者は、従業員が事業団から所定の退職金の支給を受けたときには、右の退職金支払義務を免れると解すべきであるから(本件においては被控訴会社のそのような主張及び立証はない。)、当事者間の権衡を失するものではなく、結局被控訴会社の前記主張は理由がない。 |