全 情 報

ID番号 01087
事件名 退職金支給規定の効力確認請求事件
いわゆる事件名 御国ハイヤー事件
争点
事案概要  使用者がなした退職金支給規定の変更につき、右変更は就業規則の変更としては無効であるとして、変更前の規定に基づく退職金の支払を求めた事例。
参照法条 労働基準法89条1項3号の2,93条
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
就業規則(民事) / 就業規則の届出
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 退職金
就業規則(民事) / 就業規則と協約
裁判年月日 1980年7月17日
裁判所名 高知地
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ワ) 98 
裁判結果 一部認容(控訴)
出典 労経速報1066号16頁/労働判例354号65頁
審級関係 上告審/01517/最高二小/昭58. 7.15/昭和56年(オ)1173号
評釈論文
判決理由  〔賃金―退職金―退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 労基法八九条一項四号によれば、退職金に関する事項に関し、使用者は就業規則を作成しなければならないものとされ、また前記のとおり本件退職金支給規定は就業規則と施行時期、一部改定、施行時期を同一にするうえ、被告は昭和五三年七月三一日まで労働組合員であると否とを問わず従業員が退職する場合には右規定に基づいて退職金を支払ってきたことからすれば、右規定は、就業規則を受け、退職金に関し、その支給基準、方法等の細則を定めたものと考えられるから、就業規則としての性格を有する、と認めるのが相当である。
 〔就業規則―就業規則の届出〕
 労基法八九条一項により、使用者は就業規則の作成・変更について行政官庁への届出義務を課されているが、これは行政監督のための取締規定にすぎないと解されるから、右届出をしなくとも、就業規則の作成・変更の効力に影響はないというべきである。
 〔就業規則―就業規則の一方的不利益変更―退職金〕
 本件退職金支給規定は、就業規則としての性格を有するものと認められるところ、使用者は就業規則の作成又は変更によって、労働者の既得の権利を奪い、不利益な労働条件を一方的に課すことは原則として許されないが、労働条件の統一的、画一的処理を目的とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、これに同意しないことを理由としてその適用を拒むことは許されない。
 これを、本件退職金支給規定の変更についてみると、右規定は、労働者が退社した場合、退職時までの勤続年数に比例して退職金を支払う、との労働条件を定めたものであり、昭和五三年八月一日以降の経過年数は右勤続年数に算入しない、という本件告示は、まさに右既得の労働条件を一方的に不利益に変更するものにほかならない。
 そこで、右変更が合理的なものであるか否かについて検討するに、前記一で認定したところによれば、本件告示は原告らの退職金を今後消滅させる不利益さを有するにもかかわらず、その代償的な労働条件の向上は何ら呈示されることもなく、その他右不利益を是認すべき特別の事情も認められないので、本件告示による就業規則の変更は合理的なものということができないというべきである。
 〔就業規則―就業規則と協約〕
 被告は、労働組合との間で締結された労働協約において、本件退職金支給規定が援用されていることをもって、右規定は、就業規則としてでなく、専ら労働協約としての性格を有するものと主張するが、就業規則に定められたと同一の事項を重ねて労働協約において確認・宣明する場合、その目的は使用者が、就業規則を一方的に変更して、労働者の既得の労働条件を不利益に変更することを困難ならしめ、右労働条件を維持、強化しようとするにあると考えられるから、本件退職金支給規定が労働協約に採用されるからといって、即座に就業規則としての性格を失い、労働協約としての性格のみを有するに至る、ということはできない。