全 情 報

ID番号 01092
事件名 退職金請求控訴事件
いわゆる事件名 大宝タクシー事件
争点
事案概要  会社への退職願提出後四乗務して退職したタクシー運転手が、退職願提出日以降七乗務(一四日間)しなかった者には退職金を支給しない旨の従来の慣行を明文化した会社、組合間の覚書を適用され、一部退職金を支給されなかったのに対し、その支払等を求めた事件の控訴審。(棄却、労働者敗訴)
参照法条 労働基準法89条1項3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1983年4月12日
裁判所名 大阪高
裁判形式 判決
事件番号 昭和57年 (ネ) 243 
裁判結果 棄却
出典 労働判例413号72頁
審級関係
評釈論文 盛誠吾・昭和58年度重要判例解説〔ジュリスト815号〕204頁/中嶋士元也・季刊実務民事法5号244頁
判決理由  そこで考えるに、被控訴人のようなタクシー会社にあってはタクシー乗務員が予告なしに退職した場合に代替乗務員を採用する迄業務用車輛を休車させる事態を防止する必要のあることは見易い道理であって、会社がその為の実効性のある措置をとることも是認されるべきである。本件退職金支給規定七条(2)(之は就業規則七七条(イ)をうけたものである。)は右の為に設けられた規定であるが、これについては引用の原判決認定のとおり労使間で合意された覚書(乙第三号証)が存しこれらが一体となって運用されていることが認められるので、右七条(2)の規定の効力を検討するに当ってはこれら三種の規定を綜合考慮し更に運用の実態をも併せ考えた上で判断すべきである。
 そしてその運用の実態については(人証略)によると、被控訴会社においては従業員は退職しようと思えばいつでも自由に退職できるのであって、病気とか近親者の弔事等で乗務できないやむを得ない場合を除いて、乗務できる状態であるのに通常の乗務を七乗務(一四日間)しなかった場合には、退職金の支払を請求できないが従業員は退職届を一四日よりも前に提出することを禁じられているものでもないから、七乗務を予定して、それよりも前に退職届を提出することもできるし、退職後に乗務することもできたことが認められるので、その運用は弾力性に富むものであったというを妨げず、これらの諸事情と被控訴会社の退職金が報償金性の強いものであったことを併せ考えると、前記退職金支給規定七条(2)の規定が控訴人の主張する様に労働者の退職を困難ならしめるものとは解し難くこの点から同規定の無効をいう所論は採用し難く、また同規定を損害賠償額の予約を定めたものは解し難いので労基法一六条、一三条違反をいう所論も採用し難い。