全 情 報

ID番号 01096
事件名 退職金請求事件
いわゆる事件名 北一興業事件
争点
事案概要  会社経営の飲食店の責任者として勤務していた従業員が、会社経営の別の飲食店にも勤務時間外に勤務したが、解雇されたため、退職金と未払賃金の支払等求めた事例。(一部認容)
参照法条 労働基準法2章,15条,89条1項3号の2
体系項目 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 賃金の計算方法
賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1984年2月28日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和57年 (ワ) 4388 
昭和57年 (ワ) 6079 
裁判結果 棄却
出典 労経速報1184号21頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔賃金―賃金請求権の発生―賃金の計算方法〕
 右にいわゆる「世間一般並みの賃金」とは何を指すかが問題となるが、前記認定のような原告の「A」での勤務の時間及び仕事の内容からすれば、原告の主張するように、全産業女子労働者の賃金の平均額によることも一つの合理的な考え方と解されるので、この額によることとする。(書証略)によれば、昭和五五年度における右賃金の平均額は月額金一五万二九〇〇円(毎月きまって支給する現金給与額一二万二五〇〇円に年間賞与その他特別給与額の一二分の一である三万〇四〇〇円を加えた金額)であることが認められ、他に右認定に反する証拠はない。
 〔賃金―退職金―退職金請求権および支給規程の解釈・計算〕
 原告は、退職金請求権発生の根拠として、昭和四三年六月の原告と被告との雇用契約に際し被告が退職金を支払う旨約した、と主張している。そして、原告本人の供述中には、昭和四三年八月に被告が原告を本採用するに際して、被告代表者Bは原告に対し、退職した場合には、退職金の一カ月分の賃金に勤務年数を乗じた金額の退職金を支給することを口頭で約したとの部分が存在する。しかしながら、退職金請求権は使用者がその支給の条件を明確にして支払を約した場合に初めて法的な権利として発生するものと解されるところ、原告本人尋問の結果及び被告代表者B本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨によれば、被告会社には退職金の支給を定めた就業規則はないこと、被告会社ではこれまで従業員に退職金を支払った事例が存しなかったことが認められ、また、いずれも成立に争いのない(書証・人証略)の結果によれば、被告代表者Bは原告に対して、「あなたはよくしてくれるからちゃんとしてあげなければ」としばしば述べ、着物や絵などを贈与していたことが認められ、このような事情からすれば、被告代表者Bは原告の仕事振りに常々感謝して何らかの形でその労に報いたい旨を述べてはいたが、原告を雇用するに際しては、法的な権利義務を発生させる意味において退職金支給の明確な約定まではしなかったのではないかとの合理的な疑いがあり、原告本人の前記供述部分は、雇用に際して明確な退職金支給の約定が存したことを認定する証拠としては、にわかには信用することができない。他に退職金請求に関する原告の主張を認めるに足りる証拠は存在しない。よって、原告の退職金請求は、その余の点につき判断するまでもなく、失当である。