全 情 報

ID番号 01100
事件名 退職金請求、損害賠償請求反訴事件
いわゆる事件名 グリーン開発事件
争点
事案概要  退職にあたり退職金の支払と子会社株式の買取り等を会社に要求した従業員らが、右は一定の営業成績をあげること等を停止条件としたが、右条件は成就されなかったとして右要求を拒否されたのに対し、右条件は違法無効である等と主張して退職金等の支払を求めた事例。(請求棄却)
参照法条 労働基準法89条1項3号の2
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 退職金請求権および支給規程の解釈・計算
裁判年月日 1984年7月13日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和57年 (ワ) 14675 
昭和58年 (ワ) 6539 
昭和58年 (ワ) 8309 
裁判結果 棄却
出典 労働民例集35巻3・4合併号417頁/タイムズ545号219頁/労経速報1200号18頁/労働判例440号115頁
審級関係
評釈論文 香川孝三・ジュリスト867号146頁/山口浩一郎・労働経済判例速報1220号27頁
判決理由  以上認定の事実によると、原告両名の退職金の支払は、原告両名及びAが昭和五六年四月二一日付合意書中の(イ)の項に記載された営業成績を達成することを条件としているものと認められる。
 ところで、被告会社においては就業規則及び退職手当金規程に退職金支給の要件、退職金算定の根拠が定められており、退職金は賃金の性格を有するものと認められるから、退職金の支払についてはいわゆる全額払の原則の適用があるものということができる。従って、このような退職金の支払を条件に係らしめることは、それが使用者の一方的意思に基づくときは全額払の原則に照らして許されないことはもちろんであるが、それが使用者と労働者との間の合意により行われるときは、賃金請求権の放棄の場合と同様に、その合意が労働者の自由な意思に基づくものであると認めるに足りる合理的な理由が客観的に存在するときに限りその効力を肯定することができるものと解するのが相当である(最高裁昭和四八年一月一九日第二小法廷判決・民集二七巻一号二七頁参照)。このような見地から、退職金の支払につき前記のような条件を付する旨の合意の効力が認められるか否かにつき考えると、退職金の支払には、原告X1及び同X2らが退職の日までに一定の営業成績を上げることが条件とされているのであって、逆にいえばこの条件が達成されなければ退職金の支払を受けることができなくなるところ、前記認定のように、右原告らは右条件の達成は事実上不可能であると考えていたのであり、右合意に従うかぎり退職金の支払を受けられなくなる危険性が極めて大きかったということができる。しかし、右原告らが本来支払を受ける権利を有する退職金につきこのような危険を犯してまでこのような合意をしたことが合理的であると認めるに足りる事情は本件全証拠によっても認めることができず、右の合意は右原告らの自由な意思に基づくものであるとすることはできない。そうすると、退職金の支払に前記のような条件を付する合意はその効力を有しないこととなる。
 (証拠略)によると、被告会社の退職手当金規程第七条第二項は「前項の退職手当金は、懲戒解雇の者には支給しない。」と規定し、同条第三項は、「懲戒解雇に準ずる理由で退職する場合には、退職手当金を減額することができる。」と規定していること、この他には、退職金の不支給又は減額を定めた規定は存在しないことが認められる。ところで、原告X2が被告会社を退職したのは、同原告と被告会社との間の合意に基づくものであって、懲戒解雇ではないことは前記認定のとおりであるから、退職手当金規程第七条第二項に該当しないことはいうまでもない。次に同条第三項に該当するか否かを考えてみると、同項にいう「懲戒解雇に準ずる理由で退職する場合」とは、懲戒解雇の理由があるけれども諸般の事情により懲戒解雇とはせずに合意による退職その他の形式による退職とされた場合又は懲戒解雇の理由までは存在しないがこれに近い理由があり、合意による退職その他の形式による退職とされた場合と解するのが相当であるが、この規定を適用して退職金を減額するためには、退職の当時においてそのような場合に該当することが使用者により明示又は少なくとも黙示的に明らかにされていることが必要であると解すべきである。けだし、このように解しないと、使用者が退職金の支払を免れるために労働者の退職後に懲戒解雇の理由に該当する事実を探し出してきてそれを理由に退職金の支払を拒絶することを認める結果となり、労働者の権利を著しく不安定にすることとなり、不当な結果となるからである。本件においては、原告X2の退職の当時において退職金の不支給又は減額をすべき理由があるとして問題とされたことをうかがわせるに足りる証拠は存在しないから、退職手当金規程第七条第三項を適用することはできない。
 以上の認定事実によれば、被告会社代表者Bは、訴外会社設立のころ、被告会社の従業員で訴外会社に出資しその株式を引き受けた者に対し、被告会社を退職する際には、被告会社において訴外会社の株式をその出資金額により買い受け、代金を支払うことを約束したものと認められる。
 そうであるとすれば、被告会社は、原告X1及び同X2に対して出資金各二〇〇万円を支払うべき義務があるものといわなければならない。
 (中 略)
 右の記載によると、原告X1及び同X2に対する訴外会社の株式の買取りは、右原告両名らにおいて「帳簿外資金」を捻出すること及び「残務の整理」を完了することを条件としているものと認められる。しかし、ここにいう「帳簿外資金」の意味は必ずしも明確ではないが、仮にそれが被告会社の会計帳簿に記載しない資金を意味するとすれば、これを捻出することは違法行為であるから、そのような条件は無効である。そして、このような無効な条件が付された法律行為の効力について、法律行為全体が無効となるのか、条件のみが無効となるのか(無条件の法律行為となるのか)は、一つの問題ではあるが、本件においては、前記認定のように被告会社の訴外会社株式の買取義務は、昭和五六年四月二一日の合意の以前から存在していたのであり、右の合意により初めて発生したものではないから、条件のみが無効となるものと解するのが相当である。次に、「残務の整理の完了」を条件とすることは違法ではないが、その意味内容が不明確であって、条件とすることは無意味なものといわなければならない。