ID番号 | : | 01137 |
事件名 | : | 退職金請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | シンガー・ソーイング・メシーン事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 退職に際し会社に対していかなる性質の請求権も有しない旨の文書に署名したところ、退職金を放棄したとされた労働者が、右文書は労基法二四条の脱法行為に当り拘束力を有しない等として退職金の支払を求めた事件の控訴審。(控訴認容、労働者敗訴) |
参照法条 | : | 労働基準法11条,24条1項 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺 |
裁判年月日 | : | 1969年8月21日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和43年 (ネ) 889 |
裁判結果 | : | 取消 請求棄却(上告) |
出典 | : | 労働民例集20巻4号840頁/時報568号85頁 |
審級関係 | : | 上告審/01130/最高二小/昭48. 1.19/昭和44年(オ)1073号 |
評釈論文 | : | 林脇トシ子・ジュリスト443号156頁 |
判決理由 | : | 本件退職金が労働基準法二四条にいう賃金の中に含まれ、同条が使用者において労働者に対する債権をもって労働者の賃金と相殺することを禁止する趣旨をも包含することは被控訴人主張のとおりであり、控訴会社が被控訴人に対し退職金請求権の放棄を求めた趣旨が被控訴人の控訴人に対する損害の賠償に充てるためであることも、右に認定したとおりである。しかし、労使双方の合意による相殺が右の法条による相殺禁止の中に包含されると解すべきかは、必ずしも疑がないわけではない。けだし、労働者の完全な自由意思による賃金請求権による相殺は、これを禁止すべき根拠に乏しいからである。ただ、形式上いかに合意による相殺の形態をとるにせよ、労働者の在職中の相殺契約は事実上労働者の自由意思が抑圧されて結ばれる可能性が強いから、労働者保護のための効力を否定しなければならないであろう。 しかし、労働者が従業員たる地位を失った後またはその地位を離脱するに際し、使用者との間に賃金による相殺の合意をする場合には、その合意が労働者の抑圧された意思によるということは考えられないから、その効力を是認するになんらの支障もないものといわなければならない。賃金は常に現実に労働者の入手するところとならなければならないという理想も、労働者がその地位を離れた後または離れる際の自由意思にはその地位を譲らなければならないと考えるのである。本件における被控訴人の退職金請求権の放棄は、前示認定のとおり控訴人方より退職するに際しなされたものであるから、その放棄が被控訴人の控訴人に対する損害賠償債務と退職金債権との合意による相殺の効果をうる趣旨でなされたものとしても、合意による相殺にして無効でない以上、その放棄も同様に無効ではなく、労働基準法第二四条第一項違反の問題を生じない。 |