全 情 報

ID番号 01138
事件名 給料等請求事件
いわゆる事件名 東洋ホーム事件
争点
事案概要  会社の倒産後、残務整理に従事していた従業員が、残務がなくなった後の期間について賃金の支払を請求した事例。(請求一部認容、一部棄却)
参照法条 労働基準法24条1項,26条
民法536条2項
体系項目 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 全額払・相殺
賃金(民事) / 休業手当 / 休業手当の意義
裁判年月日 1976年12月14日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ワ) 5693 
裁判結果 一部認容 一部棄却(控訴)
出典 時報845号112頁
審級関係
評釈論文
判決理由  〔賃金―賃金の支払原則―全額払〕
 被告は、同年六月末の解雇を前提としてであるが、原告に対する預け金返還請求権をもって解雇予告手当債権の相殺の意思表示をした旨主張するところ、右が仮りに以上認容にかかる賃金請求権のいずれかに対する相殺の趣旨を含むとしても、労働基準法二四条一項により賃金請求権に対する相殺は許されないものと解すべきであるから、右賃金請求権に消長を来たさない。
 〔賃金―休業手当―休業手当の意義〕
 前二項認定の事実によれば、同年九月一日以降については、原告主張のように現実に就労したことを前提とする賃金の請求は失当に帰することが明らかであるが、なお引続き雇用契約関係が継続しているとすれば、民法五三六条二項ないし労働基準法二六条による請求権を考慮する必要がある(原告の請求はかかる主張をも予備的に包含するものと解するのが相当である。)ので、同日以降の雇用契約関係についてさらに考えてみると、前認定のように、同日以降被告の事業の実態が全く存在せず、被告としても以後事業を継続しあるいは再開する意思が全くなく、かつ原告もそのことを了知し従って被告に対し具体的な労務提供の行為もしないような場合には、行為の外形により黙示の意思表示による雇用契約関係終了の効果を与えるのが相当と解すべきである。そこでこれを解雇とみるか任意退職とみるかが問題であるが、この場合倒産による事業廃止という被告側の事情によって原告の意思にかかわらずかかる事態に至ったのであるから、労働基準法二〇条の法意に照らし、これを三〇日前にする解雇の予告があったものとして取扱うのが相当である(本件においては前示事実関係に照らし解雇権の濫用等その効力を問題にする余地はない。)。そうすると原告と被告との間の雇用契約は右九月一日の翌日から三〇日を経過した同年一〇月一日をもって終了することとなるところ、この間被告の事業が廃止されたため原告は就労することができなかったことになるが、右事業廃止が民法五三六条の適用上被告の責に帰すべき事由によるものと認めるに足る証拠はない。しかし、前認定の事実関係に照らし労働基準法二六条の適用上はなお使用者の責に帰すべき事由による休業に該当すると解すべく、よって同法一三条を経て、被告は原告に対しこの間平均賃金の六割の限度で賃金を支払うべき義務があるものと解するのが相当である。