ID番号 | : | 01152 |
事件名 | : | 仮処分異議控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | アール・ケー・ビー毎日放送事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 組合活動に関連して、不退去罪及び傷害罪で起訴されたことを理由に休職処分に付せられた組合員らが、当該処分の効力を争い、賃金の仮払の仮処分を申請した事例。(一審 申請認容、当審 控訴棄却) |
参照法条 | : | 民法536条2項 労働基準法89条1項9号 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金請求権の発生 / 休職処分・自宅待機と賃金請求権 休職 / 起訴休職 / 休職制度の合理性 休職 / 起訴休職 / 休職制度の効力 |
裁判年月日 | : | 1976年4月12日 |
裁判所名 | : | 福岡高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和45年 (ネ) 733 |
裁判結果 | : | 棄却 |
出典 | : | タイムズ342号227頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔賃金―賃金請求権の発生―リボン・ハチマキ等着用と賃金請求権〕 起訴休職中の賃金請求権の有無は、直接起訴休職処分の効果と関係がないとはいえ、起訴休職処分が無効である場合、控訴会社の就業拒否には格別正当な理由がないことに帰し、これに基づく被控訴人らの労務給付の不能は、民法五三六条二項にいう使用者の責に帰すべき事由によるものというべきであつて、被控訴人らが本件仮処分の裁判の正本送達の日以降その復職が認められた日の前日である昭和四五年一〇月二日まで毎月二〇日限り前示金額の賃金請求権を有することは明らかである。 〔休職―起訴休職―休職制度の合理性、休職制度の効力〕 起訴休職処分は、前記のように、従業員に犯罪行為があつたものとして起訴された場合、懲戒を行うに当つて、その事実の確定に慎重を期するため刑事裁判の結果を待ち、その判断をなしうる程度まで事実が確定されるまでの間、暫定の身分措置として当該従業員を企業から排除しようとするものであるから、通常は懲戒処分を予定しているものというべきところ、起訴休職処分を受けた従業員は、休職期間中企業から暫定的ではあれ排除され、賃金の面においては減額支給され、休職期間中は勤務年数に算入されない等の実質上不利益な取扱を受け、起訴事実が軽微で事実が確定しても重い懲戒処分に値しないときは、起訴休職によって与えられた不利益の方が最終的懲戒処分により与えられるそれより大きいという不合理な結果をまねくこともあるから、起訴休職処分は、起訴の対象となった事柄自体からみて、少なくとも懲戒処分の対象となる可能性が存し、かつ相当程度以上の懲戒処分がなされる可能性が明らかに存する場合に限り容認されるものと解すべきだからである。 (中 略) いわゆる起訴休職制度の合理性は、一般にいわれているように次の点に求めることができるであろう。 (1)一般に、刑事事件で起訴されても有罪判決のあるまではその事実について無罪の推定を受けるが、刑事事件の有罪率が極めて高い我が国の刑事裁判の実状からすると、犯罪の嫌疑が相当程度客観化したものとの社会的評価を受けることもやむをえないところである。そのため、企業が刑事被告人たる従業員を引続き就労させる場合、当該従業員の地位、職務内容、起訴事実、態様、当該企業の性格によつては、起訴ということ自体から、対外的には企業の信用を失墜し、対内的には職場規律ないし秩序の維持に支障を生ずることがある。 (2)また公判審理が身柄拘束のまま行なわれている場合は勿論、拘束されていなくても通常の場合は公判期日の出頭が義務づけられているので、当該従業員からの労務提供が期待できない状態も生じる。仮に年次有給休暇を利用するとしても、使用者としての時季変更権の行使に制約を受ける結果となり、企業としては労働力の適正な配置に障害を生ずることがある。 以上により、当該従業員を企業から排除する必要性があり、ここにいわゆる起訴休職制度の合理性を認めることができる。 そして、更にその運用に当つては、起訴の対象となつた事柄が企業外における職務と関係のない非破廉恥的な犯行である場合は、起訴という事実によつて企業の対外的信用の保持と対内的な職場秩序の維持とに何等かの影響を及ぼすことがあつたとしても、これをもつて直ちに休職処分の合理性を認めることはできず、企業外の行動は原則として懲戒処分、起訴休職処分の対象とはなしえないものであつて、ただその行動によつて会社の信用を失墜させたり、会社に損害を加えたり、そのことによつて職場秩序を乱すといつた場合にのみそれらの対象となしうるという見地から慎重に定められねばならない。 本件休職処分当時、被控訴人らに起訴されたことによる労務提供の障害はなつたし、また将来これが生ずるおそれもなかつたと認めるのが相当で、《証拠判断省略》。 以上の諸事実関係を総合すれば起訴された被控訴人らをそのまま就労させた場合、職場規律ないし秩序の維持に支障を生じ、あるいは企業の信用を失墜し、ひいては経営上の支障を生ずると憂慮されるような事情はなかつたものと認めるのが相当である。 《証拠判断省略》 3 してみると、本件休職処分は、それを有効とする合理性の根拠を欠き、就業規則の解釈適用を誤り、更に前記の如き被処分者の被るべき不利益を考慮すれば、裁量権を乱用してなされた違法があると認められるのが相当である。よつて本件休職処分は無効といわねばならない。 |