全 情 報

ID番号 01154
事件名 賃金等請求事件
いわゆる事件名 新井工務店事件
争点
事案概要  訴提起後に予告手当が支払われた場合の附加金の支払を命ずることの可否および商人である使用者が労働者に対して負う賃金債務の遅延損害金の利率が商事法定利率によるべきか否かが争われた事例。
参照法条 商法503条,514条
体系項目 賃金(民事) / 退職金 / 遅延損害金の利率
雑則(民事) / 附加金
裁判年月日 1976年7月9日
裁判所名 最高二小
裁判形式 判決
事件番号 昭和48年 (オ) 682 
裁判結果 一部破棄自判
出典 時報819号91頁/タイムズ337号197頁/裁判集民118号249頁
審級関係 控訴審/東京高/昭48. 4.11/昭和45年(ネ)3240号
評釈論文
判決理由  〔賃金―退職金―遅延損害金の利率〕
 商人が労働者と締結する労働契約は、反証のない限りその営業のためにするものと推定され、したがって、右契約に基づき商人である使用者が労働者に対して負う賃金債務の遅延損害金の利率は、商行為によって生じた債務に関するものとして商事法定利率によるべきものである(最高裁昭和三〇年(イ)第四〇号同年九月二九日第一小法廷判決・民集九巻一〇号一四八四頁、昭和二七年(オ)第三二九号同二九年九月一〇日第二小法廷判決・民集八巻九号一五八一頁参照)。本件についてみるに、原審が確定した事実関係によれば、被上告人は商人にあたるというべきであり、反証のない本件においては、被上告人と上告人間の本件労働契約は商人たる被上告人が営業のためにするものと推定され、したがって、右契約に基づく被上告人の上告人に対する賃金債務の遅延損害金の利率については商事法定利率によるべきところ、これを民事法定利率によった原判決は商法五〇三条、五一四条の解釈適用を誤ったものというべきである。
 〔雑則―附加金〕
 労働基準法一一四条の附加金の支払義務は、使用者が予告手当等を支払わない場合に当然発生するものではなく、労働者の請求により裁判所がその支払を命じることによってはじめて発生するものと解すべきであるから、使用者に労働基準法二〇条の違反があっても、裁判所の命令があるまでに未払金の支払を完了しその義務違反の状況が消滅したときには、もはや、裁判所は附加金の支払を命じることができなくなると解すべきであり(最高裁昭和三〇年(オ)第九三号同三五年三月一一日第二小法廷判決・民集一四巻三号四〇三頁参照)、原審はこれと同旨の見解のもとに所論の附加金の請求を認めなかったものと解される。また、時間外勤務手当に関する原審の判断は正当であり、したがって、原審が認容した以上の附加金の請求を認めるべきでないことは明らかである。
 (中 略)
 労働基準法一一四条の附加金の支払義務は、労働契約に基づき発生するものではなく、同法により使用者に課せられた義務の違背に対する制裁として裁判所により命じられることによって発生する義務であるから、その義務の履行を遅滞したことにより発生する損害金の利率は民事法定利率によるべきものであり、本件の附加金支払義務につき民事法定利率を適用した原審の判決は、正当であって、この点に関し原判決に所論の違法はなく、右の違法があることを前提とする違憲の主張はその前提を欠く。