全 情 報

ID番号 01192
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 八尾自動車興産事件
争点
事案概要  休憩時間の労働、創立記念日の出勤、経営協議会、研修会への参加等が時間外労働にあたるとして、自動車教習所従業員が、これらに対する割増賃金の支払を求めた事例。(一部認容)
参照法条 労働基準法32条,37条1項,2項
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定方法
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 小集団活動
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 研修・教育訓練
労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 労働時間の始期・終期
裁判年月日 1983年2月14日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和54年 (ワ) 7748 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例405号64頁/労経速報1152号3頁
審級関係
評釈論文 荒木尚志・ジュリスト819号151頁
判決理由  〔賃金―割増賃金―割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 次に、労基法三七条二項は、割増賃金の基礎とする賃金には、家族手当、通勤手当その他命令で定める賃金は算入しないと規定しており、また、労基法施行規則二一条は、別居手当、子女教育手当、臨時に支払われる賃金、一箇月を超える期間ごとに支払われる賃金を、割増賃金の基礎となる賃金から除外する旨定めている。そして、右労基法三七条の規定の趣旨は、家族手当や通勤手当等は原則として、日々の労働とは関係なく従業員たる地位に附随する給与であって、労働者が欠勤した場合にも減額さるべきではないし、反対に超過勤務をしたからといって、増額さるべきものでもないから、これを基礎賃金から除外したものと解せられる。ところで、本件において原告らに支払われた物価手当及び雑手当は、家族手当や通勤手当等と同様のいわゆる従業員たる地位に附随して支払われる給与であることを認め得る的確な証拠はなく、むしろ弁論の全趣旨によれば、資格手当や検定手当、食事手当等と同様に日々の労働の対価としての性質を有するものであると認めるのが相当であるから、前記労基法三七条二項同法施行規則二一条の規定に照らし、右物価手当及び雑手当は、これを割増賃金計算の基礎賃金に含めるべきであると解するのが相当である。
 〔賃金―割増賃金―割増賃金の算定方法〕
 もっとも、被告会社は、右物価手当を新しく設ける際、労使間の合意により、特別乗車手当として一教程の時間外勤務につき一二〇円を支払う代わりに右物価手当を右割増賃金計算の基礎賃金に含めないことにしたし、また、雑手当についても、これを新しく設ける際、被告会社において、当時、教習第一部から第三部まで連続して勤務した者に対しては、二五分間の時間外労働に相当する割増賃金その他本来支払う必要のない割増賃金を支払っていたから、その代償として、労使の合意により、右雑手当を割増賃金の基礎賃金に含めないことにしたと主張している。しかしながら、右物価手当及び雑手当を割増賃金計算の基礎賃金に含めない旨の労使間の合意は、強行法規である前記労基法三七条同法施行規則二一条の規定の趣旨に反して無効と解すべきであるから、被告会社の右主張は採用できない。
 〔労働時間―労働時間の概念―小集団活動〕
 (イ)右趣味の会は、被告会社の従業員の福利厚生の一環としてなされていたものであって、その講師に支払う費用等は被告会社においてこれを負担していたが、被告会社の従業員がこれに参加するか否かは全くその自由に委ねられ、被告会社から右参加を強制されていたようなことはなかったこと、(ロ)したがって、被告会社の従業員のなかで、現に右趣味の会に参加していない者もあったこと、(ハ)また、被告会社において、右趣味の会に対する出欠をとっていたようなことはなく、(中 略)。
 したがって、右趣味の会に出席した場合にこれに対する賃金を支払ったこともなければ、これに欠席したことを理由に不利益を課せられるようなこともなかったこと、以上の事実が認められる。
 そうだとすれば右趣味の会の活動は、被告会社の業務として行なわれたとは到底いい難いから、原告らの右趣味の会活動が被告会社における時間外労働に当るとの主張は失当である。
 〔労働時間―労働時間の概念―研修・教育訓練〕
 被告会社では昭和四九年一二月頃全従業員が経営に参加する趣旨の下に経営協議会が設けられ、その専門委員会として、教養委員会、管理委員会、車輌委員会その他の委員会が設けられた。
 (中 略)
 右各専門委員会の委員長、副委員長はいずれも被告会社の代表取締役が委嘱し委員長には月額五〇〇〇円、副委員長には月額三〇〇〇円の手当が支給されていたし、また、被告会社の従業員は、すべていずれかの委員会に配属されていたところ、昭和五二、五三年当時、原告X1は当初は渉外委員会にその後は教養委員会に、原告X2は管理委員会に、原告X3は車輌委員会にそれぞれ属していた。
 (中 略)
 右各専門委員会は、概ね月一、二回程度教習第八部の終った午後四時五〇分から教習第九部の始まる午後五時二〇分までのうち少なくとも二〇分以上を費して開催されるのが通例であって、右委員会への出席は、被告会社における時間外労働に当る。
 右事実によれば、右専門種委員会は、被告会社の業務としてなされたものであって、原告らが右各専門委員会に出席して活動した時間は、時間外の労働時間というべきであるから、これに対して、被告会社は割増賃金を支払う義務がある。
 そうだとすれば、原告X1が右研修会に参加した分の六〇分は、時間外労働に従事した時間というべきであるからこれに対しては、割増賃金が支払われるべきである。
 〔労働時間―労働時間の概念―労働時間の始期・終期〕
 被告会社においては、原告ら主張の如く、平日は午前一一時五五分までに、また、土曜日は午前九時五五分までに出勤すれば、欠勤扱いとはされなかったことが認められるけれども、前記1に認定の如く被告会社では労働組合との協定により、平日の所定労働開始時刻は午前一一時三〇分、土曜日の所定労働開始時刻は午前九時と定め、その旨大阪府公安委員会に届け出ているところからすれば、右の如き欠勤扱いをしないことをもって、被告会社の所定労働時間を原告ら主張のようにしていたものとは到底認め難いのであって、右欠勤扱いとしない取扱いは単に事実上の取扱いに過ぎなかったものと認めるのが相当である。