全 情 報

ID番号 01200
事件名 解雇無効確認請求事件
いわゆる事件名 片山工業事件
争点
事案概要  就業規則所定の懲戒事由にあたるとして懲戒解雇された原告が、右就業規則の規定が労働基準法所定の手続をふまずに制定されたもので無効である等として、解雇の無効の確認と賃金の支払を求めた事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法36条,90条1項,2項,89条1項9号
体系項目 労働時間(民事) / 三六協定 / 協定の様式
労働時間(民事) / 三六協定 / 協定の効力
就業規則(民事) / 意見聴取
就業規則(民事) / 就業規則の届出
就業規則(民事) / 就業規則の周知
懲戒・懲戒解雇 / 懲戒手続
裁判年月日 1965年5月31日
裁判所名 岡山地
裁判形式 判決
事件番号 昭和37年 (ワ) 453 
裁判結果
出典 労働民例集16巻3号418頁
審級関係
評釈論文
判決理由 〔労働時間―三六協定―協定の様式〕
 労働基準法三六条によれば時間外労働・休日労働についての協定は書面をもってこれを締結することを要し、書面によらない協定は無効である(行政官庁に届出でても同断である)というべきところ、被告と前記労働組合との右三六協定は文書によらずに口頭で締結されたにすぎないことは前認定のとおりであるから、右協定は無効であるというべく、したがってこれにもとずく被告の残業命令は適法な職務命令たりえず、原告がこれに従わなかったとしてもこれだけでは懲戒処分その他責を問われるいわれはないものといわなければならない。
〔労働時間―三六協定―協定の効力〕
 三六協定はこれが締結されて適法な届出がなされた場合には、使用者は労働基準法三二条・四〇条および三五条違反の責を問われることなく当該協定の定めるところにより時間外労働および休日労働をさせることができるという刑事免責にその効力があるのであって、時間外労働・休日労働に服すべき労働者の義務が三六協定から直接に生ずるものではなく、使用者が労働者の義務としてこれを命じうるためにはその権利が労働契約上使用者に与えられていなければならないと解すべきところ、被告が原告に対して時間外労働を命じうべき労働契約上の権利を有していたことについて被告は何らこれを主張立証するところがない。
〔就業規則―意見聴取〕
 労働基準法九〇条一項の趣旨は、就業規則の制定・変更や内容の決定を使用者の欲するままに放置するときは、劣悪な労働条件と苛酷な制裁が課せられる危険があるところから、服務規律その他の労働条件の決定および経営権の行使について労働者に意見を表明する機会を与えて使用者の専恣を防止するとともに、労働者の労働条件に対する関心をたかめて組合運動をつうじての労働条件の協約化を指向するにあるものというべきところ、同法が労働条件の対等決定(二条一項)、労使双方による労働条件の向上の努力(一条二項)を要望している点をも考え合わせると、就業規則の制定・変更についての労働者の意見の表明はきわめて重要な意味をもつものといわなければならない。
 そうすると同法九〇条一項は単なる行政上の取締規定と解すべきではなく、使用者が一方的に制定・変更する就業規則が労働者をも拘束する法的規範としての効力を発生するための有効要件を規定したものと解するのが相当である。
〔就業規則―就業規則の届出〕
 労働基準法は使用者が就業規則を作成し、変更したときは、行政官庁に届け出るべきこと(八九条一項)および右届出には、労働者の意見を記した書面を添付すべき旨(九〇条二項)を定めているけれども、就業規則は使用者が労働者の意見を聴いて作成し、後記説示のようにこれを労働者に周知させたときに効力を生ずるものと解すべきであって、その届出は、国の労働問題に対する後見的機能を遂行する必要上要請される性質のものであるから、右届出義務を定めた前記の規定は、取締規定にとどまり、これを欠いても就業規則の効力には影響のないものと解すべきである。
〔就業規則―就業規則の周知〕
 労働基準法は、就業規則の効力発生の手続(法律でいうと公布にあたるもの)について明文の規定を設けていないが、就業規則が労働者を拘束する法的規範としての効力を持つ以上は、それが労働者に周知されなければならないことは条理上当然のことであって、労働者に周知されていない就業規則は右のような効力を発生するに由ないものといわなければならない。しかしてその周知の方法は、労働基準法に定められていない(同法一〇六条の周知義務は、直接これを定めたものと解することはできない)のであるから、実質的に労働者に周知させるに足りるだけの方法をとれば足り、必ずしも労働基準法一〇六条所定の周知方法によらなければならないものではない。
〔懲戒・懲戒解雇―懲戒手続〕
 懲戒事由および懲戒手続について就業規則に定めるところがある場合にはひとたび定立された就業規則は客観的な法規範として使用者労働者双方を拘束するにいたるものであるから、使用者は自らその有する懲戒権の行使を就業規則所定の範囲に制限したものというべく、したがって就業規則所定の懲戒解雇事由に該当する事実がなければ有効に解雇することができないというべきである。