ID番号 | : | 01215 |
事件名 | : | 雇用関係存在確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 明治乳業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 会社作成の勤務命令簿に基づく残業命令を拒否したこと等を理由に懲戒解雇された労働者が、右懲戒解雇は解雇権の濫用にあたり無効であるとして雇用関係の存在確認を求めた事例。(請求認容) |
参照法条 | : | 労働基準法36条,89条1項9号 |
体系項目 | : | 労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の義務 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務妨害 |
裁判年月日 | : | 1969年5月3日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和38年 (ワ) 8774 |
裁判結果 | : | |
出典 | : | 労経速報679号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働時間―時間外・休日労働―時間外・休日労働の義務〕 使用者が労働者に対し時間外勤務を命ずるためには三六協定を締結し所定の手続をとらねばならぬことは労基法によって明らかであるが、右の手続を履践することは単に使用者が労働者に基準労働時間を超過する労働をさせても労基法違反にならないという公法上の効果を生ずるにとどまるため、使用者が労働者に時間外勤務を命令し、労働者がこれに従うべき私法上の効果(労働義務)を生ずるためには、他の要件を必要とする。しかして、他の要件として、労働契約、就業規則で労働者が時間外勤務を行う義務のあることが明確にされている場合あるいは時間外勤務の協定が労働協約の形式で取りきめられている場合があげられ、これを積極に解する立場もある。しかしながら、労基法に定める基準労働時間を超えて時間外勤務を行う義務を認める労働契約、就業規則は、三六協定のもつ前示公法上の効果を超えて個々の労働者に時間外勤務に関する具体的義務を定めるものであるならばその限度において労基法に違反して無効であり、また労基法所定の最低労働条件以下の労働条件を労働協約に定めることは、協約の本質に背反するばかりでなく、前示の限度において労基法違反として無効であるといわねばならない。。 (中 略) 労働者は、労基法に定めるところに従って従属労働から解放される自由を享受する利益を保障されなければならないからである。このように時間外勤務に関して三六協定、労働契約、就業規則、労働協約などいかなる形式をもって取り決めをしてみても労働者にその義務を生ずることがないが、ただ三六協定成立後、使用者から具体的な日時、場所などを指定して時間外勤務に服して貰いたいとの申込みがあった場合に、個々の労働者が自由な意思によって個別的に明示もしくは黙示の合意をしたときは、それによって労働者の利益が害されることがないから、その場合に限り、私法上の労働義務を生ずるものと解するのが相当である。 本件についてこれをみるに、(中 略)。 被告会社の作成した勤務命令簿は法的には被告会社から当該従業員に対する時間外勤務に関する申込とみる以外には格別の意味をもつものではなく、従業員は同命令簿の記載内容にしたがう時間外勤務をなすべき義務を課せられることはないものというべきである。 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―業務妨害〕 以上のごとき事情のもとにおいて、勤務命令簿その他の新制度の実施に強く反対する組合支部の執行委員たる地位にある原告が、勤務命令簿無視の態度をとり、これを焼却したことには会社側の不当な措置に大半の責任があるのであるから、前示勤務命令簿焼却の事実を原因として、被告会社が原告を懲戒解雇にしたことは、社会観念上相当とみられる均衡を失するものというべきである。 (中 略) してみれば、被告会社が被告の前示懲戒事由に関して懲戒解雇の処分を選択したことは、その裁量を誤り社会観念上相当とみられる均衡を失しているため、右懲戒権の行使は権利の濫用として無効であり、その効力を生ずるに由ないものといわねばならない。 |