ID番号 | : | 01219 |
事件名 | : | 仮処分控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 日立製作所事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 便所の落書、超勤命令拒否、始末書提出拒否等を理由に出勤停止三回等の処分を受けたにもかかわらず悔悟の見込みがないとして懲戒解雇された従業員が、右解雇は不当労働行為にあたり無効である等として地位保全等求めた仮処分申請事件の控訴審。(控訴認容、労働者勝訴) |
参照法条 | : | 労働基準法36条,89条1項9号 |
体系項目 | : | 労働時間(民事) / 時間外・休日労働 / 時間外・休日労働の義務 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 業務命令拒否・違反 |
裁判年月日 | : | 1971年1月22日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和44年 (ネ) 2698 |
裁判結果 | : | |
出典 | : | 労働民例集22巻1号17頁/東高民時報22巻1号3頁/タイムズ261号346頁 |
審級関係 | : | 一審/東京地八王子支/昭44.10. 2/昭和42年(ヨ)714号 |
評釈論文 | : | 山本吉人・昭46重判解説160頁/秋田成就・ジュリスト501号153頁/本多淳亮・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕116頁 |
判決理由 | : | 〔労働時間―時間外・休日労働―時間外・休日労働の義務〕 労働協約もしくは就業規則において時間外労働義務に関する規定がおかれ、いわゆる三六協定が結ばれても個々の労働者に具体的に時間外労働義務が生ずることはないと論ずる学説もないではないが、労働協約もしくは就業規則において時間外労働義務が規定されている以上個々の労働者を拘束し、三六協定が結ばれれば時間外労働義務は具体化するものと考えるべきである。そして前掲疎乙第四号証、同第一一号証の一、二、原審証人Aの証言によれば、被控訴会社の就業規則及び労働組合との間の労働協約には、時間外労働義務に関する規定がおかれ、また、昭和四二年九月当時一ケ月四〇時間以内の時間外労働を内容とする三六協定が締結され、被控訴会社の従業員は、右に従って残業に従事していたことが一応認められるから、控訴人も正当の事由なくして残業命令を拒否しえないものといわねばならない。 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―業務命令拒否・違反〕 便所の落書、就業時間中の同僚の業務妨害、同じく無断私用外出の諸行為は、職場の規律保持の観点からして些細な行為とはいえないにしても、控訴人は資金カンパ強要の点を除き、いずれもその直後自己の非を認めており、また無断私用外出についても、業務の合間をみて組合大会を傍聴し、組合員として認められた権利を行使しようとしたところ、承認を受くべき所属上長がいずれも不在のため、やむなく同僚に断わって手続をとって会場に赴き、その後職場に帰った後は午後一一時まで残業をしているのであって、控訴人の右行為については情状酌量すべき点がないでもない。いずれにしても控訴人のこれらの行為を以て就業規則第五一条第一項第一二号に該当すると解するのは相当ではない。 もっとも控訴人は九月一九日出勤停止期間を終えた後も時間外労働に対する従来からの考えは変えず、残業命令拒否も就業規則に違反したとは考えないが、残業に協力し誠意をもって仕事をするよう努力する態度を示したが、依然として反抗的言動を改めなかったことは、前記認定のとおりである。控訴人の時間外労働に対する考え方は、その主張あるいはその実現の方法においてあやまっているとはいえ、考え方自体は、不合理なものとはいいきれないものであり、それを一回の出勤停止期間中に考えを変えないからといって、残業には協力するとの態度を示しているにもかかわらず、控訴人を責めるのは酷というべきである。そして控訴人に対するそれ以前の三回の懲戒処分は時間外労働とは直接関係はなく、又控訴人自らその非を認めていることは前記のとおりである。しかも控訴人も時間外労働に対する自分の考えはあくまで変えないにしても、残業には協力し、誠意をもって仕事をする態度を示しているのであるから、仮令控訴人の始末書提出についての行為が形式的には就業規則第五一条第一項第一二号にいうしばしば懲戒、訓戒を受けたにもかかわらずなお悔悟の見込みのないときに該当するとしても、前記認定の事実関係の本件においてはいまだもって職場の秩序を維持し生産性の向上をはかりもって企業を運営維持するうえからして控訴人を職場から終局的に排除するを相当とする程度に情状が重いものと認めることはできないから控訴人を同号に基いて懲戒解雇することは、右規則の解釈適用を誤まったものとして許されないものといわねばならない。 |