ID番号 | : | 01228 |
事件名 | : | 懲戒処分無効確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 北九州市清掃局事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 年末手当額等について合意が得られなかったために年末時の休日出勤命令を拒否した市清掃局職員に対してなされた懲戒処分の取消が求められた事例。(一部認容) |
参照法条 | : | 労働基準法32条,35条 地方公営企業労働関係法37条~39条 |
体系項目 | : | 労働時間(民事) / 法内残業 / 残業義務 懲戒・懲戒解雇 / 懲戒事由 / 違法争議行為・組合活動 |
裁判年月日 | : | 1977年12月2日 |
裁判所名 | : | 福岡地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和45年 (行ウ) 14 |
裁判結果 | : | 一部認容(控訴) |
出典 | : | 労働判例292号43頁 |
審級関係 | : | 控訴審/01236/福岡高/昭58. 3.16/昭和52年(行コ)23号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 〔労働時間―法内残業―残業義務〕 原告ら単純労務職員の労働関係は地公労法及び地方公営企業法三七条から三九条までが準用される結果、同法三九条一項により地方公務員法五八条三項が適用されないことになるので労働基準法七五条ないし八八条を除いて同法の適用がある。 そして労働基準法三二条には労働時間の制限、同三五条には休日についての定めがある。 原告らは労働基準法に定める労働時間を超える労働(以下法外超過労働という)を労働者に義務づけるためには単に同法三六条の協定並びに就業規則の定めのみでは足りず個々の労働者のその都度の同意が必要であるとし、この理は労働基準法の範囲内で所定労働時間を超える労働(以下法内超過労働という)においても同様であると主張する。 なるほど法外超過労働の場合に三六協定に加えて、就業規則ないし協約に残業を義務づける規定があるとき、このような事前の包括的同意から個々の労働者の意思に反しても残業を義務づけうるとすればそれは恒常的、継続的な残業に道を開くことを意味し、労働基準法三二条の趣旨を脱法するものといわざるをえない。したがって残業を義務づける就業規則の規定は同法三二条に違反する限度で無効となるから八時間を超える残業を使用者から申し込まれても、個々の労働者がその都度の同意を与えた場合にのみ労働契約上の残業義務が生じると解される。 しかし法内超過労働の場合には就業規則ないし協約で残業義務づけ規定を設けても同法三二条違反とはならず労働条件の基準として労働契約の内容となり得ると解される。しかし就業規則や協約に一般的概括的な残業規定がある場合に個々の労働者の残業義務を全面的に肯定すれば事実上所定労働時間制の建前を崩し恒常的な超過労働を容認する結果となり同法一五条の労働条件明示義務違反の疑問も生じる。したがってこのような場合には労働者にも超過労働を拒否しうる場合のあることが承認されるべきである。そしていかなる場合に労働者の拒否が正当とされるかは、基本的には、超過労働を命じる使用者側の必要性と、労働者側の拒否事由の合理性との利益衡量によって判断すべきものと考える。 (中 断) むしろこれまで認定してきたところ並びに弁論の全趣旨によると年末休日出勤についての手当額等の労働条件が市当局と市職労との数回にわたる団体交渉によっても合意に至らなかったことから市職労がその主張を貫徹するためその闘争戦術として年末休日勤務拒否の指令を出し原告らは右指令に従って統一的な集団的行為に出た結果であると見るのが相当である。 そうであるとすれば、市当局の年末清掃の必要性の存在に比し原告ら側における拒否事由は右の団体交渉による労働条件の不一致を除いては存在しなかったことに帰する。そして右不一致は争議行為の理由となり得ても原告ら各自の出勤拒否の正当事由と見るのは困難である。(かりに本件休日勤務命令が無効であるならば労働義務も生じないからストライキとはなり得ず休むのは当然の権利行使となる。) 以上の次第であるから原告らは本件就業規則に基づく勤務命令に対しこれを拒否し得る場合にあたらないと解するのが相当である。 〔懲戒・懲戒解雇―懲戒事由―違法争議行為・組合活動〕 原告らは本件休日勤務命令を拒否し得ない場合換言すればこれによって出勤義務が発生した訳である。しかるに市職労の休日出勤拒否の指令に従って統一的集団的にその業務の正常な運営を阻害する争議行為を行ったものといわざるを得ない。すなわち、(人証略)に見られる如く市職労執行部及び組合員の多数が休日となっている日に休務するのは当然の権利行使であるとの認識をもって休務したとしても、市職労の統制下に集団的に労務の提供を拒否する結果を招き、これが業務の正常な運営を阻害する限りにおいて争議行為に該当することは否めない。 (中 略) 一二月二九日ないし三一日のストライキは、既に認定の経緯によって市職労の指示によって統一的、集団的に行われたものであり、原告らのうちには三日間全部欠勤した者、二日間欠勤した者、一日欠勤した者等の差異はあるが、参加人員の大量性、ストライキ期間の長期性等考慮すれば、市当局が、右ストライキに対する緊急措置をとらなければ市民の生活に対し重大な支障を及ぼし得るものと推測される。 従って北九州市における清掃業務の公共性、本件争議行為によって市民生活に及ぼす虞れある支障の重大性等を併せ考慮するならば、右のストライキは地公労法一一条一項の禁止する争議行為に該当するものと考えられる。 (中 略) これら諸般の事情を考慮すると、被告が右年末出勤拒否を本件処分の基本としたことは妥当であったと言いうる。そして三日間全部にわたって年末出勤拒否をした者に対し減給処分二日以内の年末出勤拒否者に対して戒告処分としたことは処分権者に与えられた合理的な裁量権に属する。 |