ID番号 | : | 01250 |
事件名 | : | 賃金等請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 東京都調布市立第三中学事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 校長の指示により職員会議に出席した公立学校教職員らが、右職員会議への出席は時間外勤務にあたるとして時間外勤務手当と附加金の支払を求めた事例。(一部認容、一部棄却、原告一名を除き請求認容) |
参照法条 | : | 民法416条,419条 労働基準法37条2項 |
体系項目 | : | 労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 教職員の勤務時間 雑則(民事) / 附加金 |
裁判年月日 | : | 1968年11月28日 |
裁判所名 | : | 東京地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和36年 (行) 111 |
裁判結果 | : | |
出典 | : | 行裁例集19巻11号1821頁/時報546号49頁/タイムズ229号109頁/教職員人事関係裁判例集6号157頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 外尾健一・昭和43年度重要判例解説〔ジュリスト433号〕155頁 |
判決理由 | : | 〔労働時間―労働時間の概念―教職員の勤務時間〕 このように教員の職務が単純な機械的作業或いは事務処理と異り、児童生徒の健全な育成という創造的なものであることから各教員がその職務を遂行するにあたり、常に所定の勤務時間に拘束されていたのではその活動に柔軟性を欠き本来の目的を充分に達成することが難しいことは前記のとおり明らかといわねばならない。 しかし、翻って考えてみれば、右のような職務の性質並びに勤務の実態そのものは、教員が現実に勤務した時間を算出することが事務上容易でないことの説明にはなるものの、右の教員の実態がすでに教員が時間外勤務をすることがあることを示しており、この時間外勤務時間の算定が常に不可能であると称し得ないことは当然である。 (中 略) 従って、このような教員の勤務の実態は教員に時間外勤務手当を支給することが不適当であるという根拠にはならないし、まして被告の主張するように現行法上そのような解釈を導き出す手がかりにはならないというべきである。 (中 略) たしかに教員に対しては昭和二三年以来初任給を二号俸高くする優遇措置が講じられていることが認められる。しかし証人Aの前記証言並びに成立に争いのない乙第二号証の一を綜合すると教員の初任給はこの措置によって昭和三五年四月当時で一般行政職員より一、八一〇円高くなっているが、その後の昇給の過程では逆に行政職員の昇給率が高いために教員の方では昇給期間を短縮することにより辛うじてこの優遇措置を維持しているものの、一時的には行政職の方が高い時期のあることが認められることからすると、実際には時間外勤務手当を支給しないことのみかえりとしての意味は非常に少ないとも考えられる。 そしてこの優遇措置が右のように優遇の意味を充分には保っていないにもかかわらず、その後これが是正されておらず、且つ被告の主張するような優遇措置の趣旨が法令上明確にされていないことからすると、この調整号俸の点から現行法上教員に時間外勤務手当請求権は存しないとの結論を引き出すことは困難である。 以上認定の事実関係からすると、調布市立第三中学校において行われている職員会議は終局的には校長の掌握の下に開かれており、その機能の点から見ると同校の運営ひいては生徒に対する教育を円滑かつ効果的に進めるために校務を掌理する学校長を補佐し、或いはこれに協力するためのもので現実には学校運営のための重要な機関としての作用を有しているものと見るのが相当であり、また学校長も職員会議の有するこのような機能を重視して教員に出席を促し、自らこれに出席して各教員の意見を聞き、これらの会議の結果を一助として学校の運営をはかっていたものと認められる。これらの点からすると、教員がこの職員会議に出席しなくては、自己の職務の遂行上支障を生ずるので、結局教員が職員会議に参画することは教員の職務の一部に属するものというべくその意味から同会議が法規にもとづいて設置されたものではなく、更には校長が会議の都度明示の命令をもって各教員を出席させたのではなくても、少くともその出席は黙示の命令にもとづくものとみるのが相当である。とすれば先に認定した原告らが所定の勤務時間終了後職員会議のために居残った時間は時間外勤務手当の対象となるものと結論せざるをえない。 〔雑則―附加金〕 労働基準法第一一四条が「裁判所は……労働者の請求により……附加金の支払を命ずることができる。」としたのは、労働者が附加金の請求権を有しているから、裁判所が給付命令をすることができる当然の事理を明らかにしただけで特別の意味を有しないものと解すべきである。 労働基準法中の労働条件に関する規律は結局個々の労働契約の内容となり、これに基き労働者は右契約に基く請求権を有することとなるが、同法第一一四条に定める附加金の制度も右の労働条件の規律の一つである。 従って、労働者は労働契約から生ずる請求権として附加金の請求権を有するものというべきである。 同法第一一四条の立法趣旨は、割増賃金等の不払があって、労働者がその支払を求めるため訴訟を提起せざるを得ない場合に至った場合、使用者に対してこれと同額の民事罰を課することによって、使用者にこれらの支払債務を訴訟提起前に履行させ、併せてこれらの支払の遅滞を受けた労働者の保護をも図ることにあるとするのが最も合理的と解せられる。 なお、割増賃金等の債務の不履行に対して附加金の制裁があるからといって、一般の理論(民法四一六条四一九条等)から生ずる遅延利息が発生しないと解すべき根拠は見当らない。 従って、労働基準法は割増賃金等の不払については労働者は一般の理論に従って遅延賠償を請求できる外それとは無関係に違約罰に当る附加金の支払を請求できることとしたと解するのが相当である。 (中 略) 附加金債務は期限の定めのない債務である。かかる債務にあっては、債務者は履行の請求を受けたときから遅滞の責に任ずると解するのが一般ではあるが、附加金の場合は前述の立法趣旨から訴訟提起による請求の時(具体的には訴状送達の翌日)から遅滞におちいると解するのが相当である。 |