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ID番号 01256
事件名 時間外勤務手当請求控訴事件
いわゆる事件名 静岡県教職員事件
争点
事案概要  市立小中学校の教職員が、児童・生徒の修学旅行や遠足の引率、付添の勤務につき、正規の勤務時間を超過した時間に対して時間外勤務手当の支払を請求した事件の控訴審。(労働者側の控訴のみ認容)
参照法条 労働基準法37条,41条3号
体系項目 労働時間(民事) / 労働時間の概念 / 教職員の勤務時間
労働時間(民事) / 事業場外労働
労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 監視・断続労働
裁判年月日 1970年11月27日
裁判所名 東京高
裁判形式 判決
事件番号 昭和41年 (行コ) 17 
昭和41年 (行コ) 18 
裁判結果 棄却 一部変更(上告)
出典 行裁例集21巻11・12合併号1356頁/時報612号25頁/東高民時報21巻11号241頁/タイムズ255号132頁/教職員人事関係裁判例集6号298頁
審級関係 上告審/01261/最高三小/昭47.12.26/昭和46年(行ツ)84号
評釈論文 三輪定宣・教育判例百選220頁/松岡三郎・判例評論148号2頁
判決理由  〔労働時間―労働時間の概念―教職員の勤務時間〕
 第一審原告らが出張して公務に従事する場合は、一応正規の勤務時間内公務に従事したとみられるけれども、「給与規則」第二七条第二項によれば、「公務により出張中、出張目的地において正規の勤務時間をこえて勤務すべきことを任命権者があらかじめ命じた場合においてその勤務時間につき明確に証明できるものについては、時間外勤務手当を支給する。」と定められているところ、本件の場合は、前記当審の事実認定(原判決引用)に供した各証拠によれば、第一審原告らの所属する各学校においては、修学旅行や遠足を実施するにあたっては、その目的、日程、引率者もしくは費用等について計画案を作成し、これを学校長の名をもって静岡市教育委員会に承認を求め、その認可を得てから実行しているものであって、右計画によれば、第一審原告らの主張する原判決添付別紙明細表に各記載のごとき時刻がその行事の集合時刻、乗車、出発時刻あるいは就寝時刻、起床時刻、さらには静岡駅着時刻、解散時刻等と定められていること(もっとも、これらの時刻のうちの若干につき明記されていない計画表もあるが、その場合でもその記載事項の前後の関係から右の点はおのずから明らかとなる。)、右旅行や遠足が計画どおり実施され、第一審原告らがその主張のとおり各所属学校長のあらかじめなした命令によってこれに参加し、その主張の各時間外勤務をしたことが明確に証明できること(ただし、原判決添付別紙明細表備考欄に×印を付したもの―当審において前示一(10)(イ)(ロ)(ニ)(ヘ)で右同欄を訂正した後のものによる―を除く。)がいずれも認められ、そして、この場合右各学校長が右規則第二七条第二項にいう任命権者にはあたらないけれどもこのような学校長の命令により現実になした時間外勤務に対し第一審原告らがその主張の各時間外勤務手当請求権を取得すると解すべきことは、原判決理由三(当審引用)に記するところと同様である。
 〔労働時間―事業場外労働〕
 第一審被告は、本件修学旅行または遠足の引率・付添の勤務については、労働基準法施行規則第二二条の規定が適用されるから、第一審原告らがかりに現実に勤務時間外に勤務した事実が認められるとしても、これに対して時間外勤務手当の支払請求権は発生しない旨主張する。思うに、同条が設けられた趣旨は、出張等同条に規定する場合は本来の勤務場所を離れて勤務するので、一般的にどのような勤務が現実になされたのか必らずしも明らかに把握できないため労働時間の算定が困難であるから、争いを避けるために規定されたものであり、したがって、使用者が予め明示的または黙示的に別段の指示をした場合、この指示内容によって労働時間の算定が可能となるかぎりその例外を設けることとし、同条にはその但書として「但し、使用者が予め別段の指示をした場合は、この限りでない。」と規定したものと理解すべきである。そして、前示「給与規則」第二七条第二項の規定も、右労働基準法施行規則第二二条本文に規定するような趣旨を当然の前提において、右但書とほぼ同じ趣旨のことを定めたものと解される。
 本件における修学旅行ないし遠足における第一審原告らの時間外勤務については、右「給与規則」第二七条第二項のほかに労働基準法施行規則第二二条の適用される余地があるとしても、前認定の事実関係からすれば、まさに同条但書が適用されるべき場合に該当するものと認められるから、同条本文の規定がそのまま適用される場合であることを前提とする第一審被告の主張は採用できない。
 〔労働時間―労働時間・休憩・休日の適用除外―監視・断続労働〕
 原判決は修学旅行ないし遠足における引率ないし付添の勤務は、その実質において労働基準法第四一条第三号にいう監視または断続的労働にあたり、客観的にみて同号の許可基準に該当するとしている。しかしながら、《証拠略》によれば、右引率・付添の勤務は、児童・生徒に対する教育的効果の達成や危険の予防ないし発生した危険に対する善後措置の施行等極めて重大な責任を負担し、心神ともに不断の緊張およびその結果としての疲労を伴うものであって、その労働の密度において決して右原判示のごとき性質のものでないことが認められ(とくに、観光ないしレクリエーション的色彩を多分に帯びるものとする原判示は論外である。)、これに反する証拠はない(《証拠略》中には、修学旅行にあたって引率・付添を希望する教職員が多い旨の供述があるが、かりにそのような事実があったからといって右認定の妨げとなるものではない。)。のみならず、かりに引率・付添の勤務が原判示のような実質をもつ労働であるとしても、本件において労働基準法第四一条第三号に規定する行政官庁の許可を受けたことについてなんらの主張・立証がないから、第一審被告は同法を適用することによって時間外勤務手当の支払義務を免れることはできないものというべきである。