全 情 報

ID番号 01277
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 サンド事件
争点
事案概要  会社により役職手当を支給されていた課長職職員が、時間外、休日、深夜各労働に対する手当の支給を受けなかったのに対し、右手当につき協約所定の計算方法で計算した額の支払を求めた事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法37条,41条2号
体系項目 賃金(民事) / 割増賃金 / 割増賃金の算定基礎・各種手当
労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 管理監督者
裁判年月日 1983年7月12日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和56年 (ワ) 6733 
裁判結果 一部認容
出典 労働判例414号63頁
審級関係
評釈論文 和田肇・ジュリスト842号189頁
判決理由 〔賃金―割増賃金―割増賃金の算定基礎・各種手当〕
 右役職手当は、その名称からすれば、役職者以外の者とは仕事上の責任等に差異のある役職者の職務に対し支給される賃金、と一般にはみられるものである。
 (中 略)
 しかしながら、右前提事実に照らすと、原告に対する関係では、原告の職務内容(質及び量)・給料・勤務時間の取扱が課長昇進前後で殆んど差異がなかったのであるから、右役職手当を課長としての職務に対し支給された賃金とは看做し難く、被告の意図は別として右原告の認識に従っても、実質的には、原告の当時の時間外・深夜・休日手当分の定額打切支給分というべき性質が強いものであったということができる。
 (中 略)
 これに加えて、本件労働協約は、課長の役職手当と時間外・深夜・休日勤務手当の双方の支給を受けることを、予定しておらず、そのような待遇は本件労働協約の趣旨に反するとみられる。
 (中 略)
 そうであれば、原告が支給された前記右役職手当分計金四三万二〇〇〇円は原告の関係では、すべて時間外・深夜・休日勤務手当に相当する手当であったと評価するのが合理的である。
 (中 略)
 従って、右役職手当分計金四三万二〇〇〇円の支給は、原告の前記1で算定した時間外・深夜・休日勤務手当の一部弁済ということができる。
〔労働時間―労働時間・休憩・休日の適用除外―管理監督者〕
 原告は、被告課長に昇進後は、被告大阪工場内の人事等にも関与したが、独自の決定権を有していたものではなく、上司を補佐し、上司から与えられた仕事をこなしていた域を出ないものであって、被告の重要事項についての決定権限はなかったこと。
 (中 略)
 原告は、遅刻早退につき賃金カットされたり人事考課に影響を受けたりすることはなかったが、この点は、被告の課長昇進前とさほどの差異のない取扱であり、かつ、事実上の黙認というべきものであって、原告が、労働協約・就業規則に従った勤務時間の拘束を受けていることに変わりはなく、時間外勤務等を含め自己の勤務時間について自由裁量の余地をほとんど有していなかったこと。
 (中 略)
 原告は、被告課長昇進後も、引続き労働組合員であったこと及びタイムカードの打刻を続けたこと、に象徴的に表われているとおり、その職務内容(質及び量)・給料・勤務時間の取扱等について、右課長昇進前後でほとんど差異がなかったこと。
 (中 略)
 ところで、労働基準法四一条二号所定の管理監督者とは、同法第三章、第六章所定の労働時間・休日等に関する規制・保護が不必要な類型とされている労働者であって、この趣旨に照らし、一般に、その職務内容・権限からみて経営者と一体的な立場に立って勤務し、これに伴ない自己の勤務時間の管理を含め相応の自由裁量権と待遇を与えられている者と解されているところ、原告の場合、右のとおり、当時被告の課長職にあって役職手当を支給されていたとはいえ、課長昇進前とほとんど変わらないその職務内容・給料・勤務時間の取扱に照らし、被告の利益を代表して右大阪工場の事務を処理するような職務内容・裁量権限・待遇を与えられていたとは到底いえず、被告と一体的な立場に立って勤務し勤務時間について自由裁量権を有していたともいえないから、原告は、労働基準法四一条二号所定の管理監督者には該当しないというのが相当である。