ID番号 | : | 01284 |
事件名 | : | 判定取消請求控訴事件 |
いわゆる事件名 | : | 静岡県教職員事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 教育委員会は被控訴人が応諾し且つ労働基準法四一条三項の許可がある場合にのみ被控訴人に宿日直勤務を命じうるとする措置等を控訴県人事委員会に要求したところ、この要求が棄却されたためその判定の取消を求めた事例。(一審 一部認容、二審 取消全部棄却) |
参照法条 | : | 労働基準法41条3号,115条 学校教育法28条4項,51条 |
体系項目 | : | 賃金(民事) / 賃金の支払い原則 / 賃金請求権と時効 労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 監視・断続労働 労働時間(民事) / 労働時間・休憩・休日の適用除外 / 宿日直 雑則(民事) / 時効 |
裁判年月日 | : | 1967年9月29日 |
裁判所名 | : | 東京高 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和40年 (行コ) 23 |
裁判結果 | : | 一部取消・一部請求棄却 |
出典 | : | 時報502号68頁/東高民時報18巻9号143頁/教職員人事関係裁判例集5号224頁 |
審級関係 | : | 一審/01246/静岡地/昭40. 4.20/昭和36年(行)2号 |
評釈論文 | : | 後藤清・判例評論111号109頁 |
判決理由 | : | 〔労働時間―労働時間・休憩・休日の適用除外―監視・断続労働〕 おもうに、労働基準法第四一条第三号は、労働密度が特に稀薄で身体または精神の緊張の比較的少ない労働もしくは休憩時間は少ないが、手待時間の比較的多い労働に従事する労働者についてはその労働の特性のゆえに労働時間、休憩及び休日に関する厳格な法の規定を等しく適用することはかえって均衡を失する結果となるとともに所轄行政官庁の規制に委ねるときは特に法定の制限を加えなくとも当該労働力の保護に欠けるところがないとの趣旨に基いて設けられた規定であるから、同号にいう「断続的労働」とは、たとえば寄宿舎専属の寮母及び看護婦、交通量の比較的少ない踏切の警手等本来の業務が常態として断続的である場合のみを指称しているものと解すべき余地があり、かく解するときは断続的でない本来の業務を有する者がその業務終了后に断続的な宿日直勤務に従事する場合に関する規定である規則第二三条は、その規制対象を異にする点において法第四一条第三号を根拠規定とすると解することは困難であるのみならず、法第四一条第三号にもとづく施行規則第三四条の規定と規則第二三条とを対比すれば、両者のおかれている位置及びその規定の仕方、殊に前者は法四一条三号の許可手続を定めているのに対し、後者は法第三二条のみの適用除外を規定していること等からみて、規則第二三条は、労働時間のみならず休暇、休日規定の適用除外を認める法第四一条第三号を根拠とするものとは認められないと解すべきが如くである。しかしながら法第四一条第三号の規定の前述の立法趣旨からすれば、右規定は、その規制対象を必らずしも断続的労働を本来の業務とするものに限定するものと解すべきではなく、他の業務に従事する者がその本来の業務以外にこれに附随して宿日直勤務に従事する場合においても、この両種の業務をあわせ一体として考察し、労働密度の点から過度の労働に亘らず、労働時間、休憩及び休日に関する法的規制を宿日直勤務に関する限り除外しても労働力の保護に欠けるところがないと認め得られる場合をも包摂する趣旨の規定と解するのが相当であって、規則第二三条は、法第四一条第三号に該当する特殊な場合の解釈規定と解すべきである。 〔労働時間―労働時間・休憩・休日の適用除外―宿日直〕 二、(一)学校教育法第五一条によって高等学校に準用される同法第二八条第四項は、教諭の職務として「教諭は児童の教育を掌る。」と定めているから、右規定を平面的に文理解釈するときは、教諭の職務は児童の教育を掌ることのみにあると解する余地がないわけではないけれども、学校教育法第二八条は教育活動を目的とする人的・物的要素の総合体である学校営造物の各種職員の地位を明らかにするため、その主たる職務を摘示した規定と解すべきであるから、同条第四項の規定を根拠として児童に対する教育活動以外は一切教諭の職務に属しないものと解することは許されない。もとより教諭は、児童生徒の教育を掌ることをその職務の特質とするのではあるが、その職務はこれのみに限定されるものではなく、教育活動以外の学校営造物の管理運営に必要な校務も学校の所属職員たる教諭の職務に属するものと解すべく従って学校施設・物品・文書の管理保全および外部連絡等の目的をもって行われる宿日直等もこの意味において教諭にこれを分掌すべき義務があり、上司たる校長は教諭に対し、職務命令をもって宿日直勤務を命ずることができ、右勤務を命ぜられた教諭は、あえて法令の規定をまたず職務としてこれに従事する義務があるものといわなければならない。 そして、このように手続に違法のある宿日直勤務については、法第四一条第三号、同法施行規則第二三条によって、労働時間、休日労働等の関係規定の適用除外が認められない関係上これを労働基準法上の時間外または休日労働と目し、超過勤務として取扱うべきであるとの行政解釈(昭和二三年四月二二日基収第一〇三九号、なお昭和二三年九月二〇日基収第三三五四号)が行われたけれども、そもそも超過勤務手当は、正規の勤務時間をこえて勤務することを命ぜられた職員に正規の勤務時間を超えて勤務した全時間に対し、勤務一時間につき、勤務一時間当りの給与額を一定の割増率によって支給されるものであって、本来の勤務の延長に対する給与にほかならないというべきところ、被控訴人のなした宿日直は、既述のところから明らかなように、その実態において法第四一条第三号規則第二三条にいう断続的労働に該当し、教諭としての本務に附随する職務と見られるべきものであって本来の勤務の延長または変形ではなく、本来の勤務とは別個の労働であること、法第四一条第三号、規則第二三条の立法趣旨に照し、同条の許可は、その存否如何によって時間外労働となるか否かを決するものとは考えられないことからすれば、被控訴人のなした宿日直勤務が右許可を得ない違法なものであったことによって直ちに右勤務に対して超過勤務手当等が支給されるべきであるということはできない。それ故本件宿日直勤務に対する手当の額が超過勤務手当等とひとしい額でなければならないとの被控訴人の主張は失当であるというのほかはない。 〔賃金―賃金の支払い原則―賃金請求権と時効〕 〔雑則―時効〕 地方公務員法第五八条第二項は労働基準法のうち特定の規定並びにこれらの規定に基く命令の規定は職員に関して適用しないことを定めているから、文理上も右第二項の規定する労働基準法の適用除外規定以外の規定は、明らかに公立学校の教育公務員を含む一般職の地方公務員に関しても適用されるものと解すべきであり、従って被控訴人の宿直手当請求権は、それが公法上の債権であるとしても、そのことによって当然に労働基準法の適用を排除されるとはいえないのであって、地方公務員法第五八条第二項による除外規定に該らない労働基準法第一一五条の適用を受けるべきものといわなければならない(右法条は、私法上の賃金に関して民法第一七四条の規定する一年の短期消滅時効を修正する意味をもつものであるということから、ただちに公法上の賃金について当然その適用を排除せられるものとは解することはできない。)。それ故被控訴人の本件宿直手当請求権は、二年間これを行なわない場合には、時効によって消滅するものと解せざるを得ない。 |