全 情 報

ID番号 01305
事件名 損害賠償請求事件
いわゆる事件名 住友化学工業事件
争点
事案概要  休憩時間中も、炉の点検監視の作業を必要とされていた従業員が、これを理由とする損害賠償等を請求した事例。(請求一部認容、一部棄却)
参照法条 労働基準法34条
体系項目 休憩(民事) / 「休憩時間」の付与 / 休憩時間の定義
休憩(民事) / 「休憩時間」の付与 / 休憩時間の不付与と損害賠償
裁判年月日 1975年12月5日
裁判所名 名古屋地
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ワ) 1789 
裁判結果 一部認容 一部棄却(控訴)
出典 労働民例集26巻6号1103頁/時報805号108頁
審級関係 上告審/03318/最高三小/昭54.11.13/昭和53年(オ)763号
評釈論文 宮本安美・判例評論215号46頁/大山宏・季刊労働法102号94頁/中嶋士元也・ジュリスト630号156頁/野沢浩・労働判例246号12頁
判決理由  〔休憩―「休憩時間」の付与―休憩時間の定義〕
 労働者は、労働契約に基づいて労働力を一定の条件に従って使用者に提供することを義務づけられ、その限りにおいて拘束されるのにすぎず、したがって、右契約により定められた範囲内の時間だけ労働力を使用者に提供するのが労働者の義務であって、それ以外の拘束時間、即ち休憩時間は使用者の指揮命令から解放されたまったく自由な時間であり、この時間をいかに利用するかは使用者の施設管理権等による合理的制限を受けるほかは労働者の自由な意思に委ねられているのである。(休憩時間自由利用の原則―労基法三四条三項)この自由利用を担保するためには、休憩時間の始期、終期が定まっていなければならず、特に終期が定かになっていなければ、労働者は到底安心して自由な休息をとりえないことは明らかというべきである。
 〔休憩―「休憩時間」の付与―休憩時間の不付与と損害賠償〕
 そこで本件についてみるに、操炉班員は食事に行っている時間を除いて現場を離れることができず、一勤の場合の昼休み時間帯についてもフンケンを覚知しうる範囲内に留まっていなければならず、現場を離れる場合は上司や同僚に断わらなければならず、一旦現場を離れても、フンケン作業は二名で行なうこととされており他の班員に迷感をかけないためにも急いで現場に戻ってきたであろうことは想像に難くない。定期突っ込み作業やフンケン作業がなく待機所にいる時間についても、喫煙したり雑談したりすることが許されていたとはいっても、フンケンは何時発生するか予測できないものであり、フンケンが発生すれば速やかに作業にとりかからなければならず、以上のことは二勤、三勤の場合も異なるところはなかったのである。
 右のように常にフンケンを覚知しうる範囲内に留まっていなければならないとすることは、到底休憩時間の利用につき労働者に課せられる合理的制限とみることはできず、操炉班員は食事時間を除いて終期が定まったうえ労働から解放され使用者の指揮命令から離脱できる時間を与えられていなかったというのほかはない。一五分程度の食事時間についても、その間現場に残った班員は他の班員の分までフンケン作業に従事しなければならず、食事に出た班員も急いで現場に戻らなければならなかった実情からして休憩時間とみるに値するものか否か疑問である。
 以上のとおり、会社は原告が操炉班に所属していた間一貫して前記一勤務一時間の休憩時間を与えるべき債務を履行しなかったと解するほかはない。
 (中 略)
 原告が被告の右債務不履行により休憩時間中労働契約上の労働時間を超過して労働に従事させられたことにより蒙った損害の額は、原告主張のごとき方法により算定される賃金相当額である
 (中 略)
 本件操炉現場が高温の職場であり、班員の休憩の必要性は特に高かったと考えられ、しかも相当長期間会社の右債務不履行が継続したこと、他面操炉班では比較的待機時間が長く昼休み時間帯などにバトミントンを楽しむこともあった等の事情を考慮すると、原告の蒙った精神的損害を金銭に換算すればその額は二〇万円をもって相当とする。