ID番号 | : | 01318 |
事件名 | : | 懲戒処分無効確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 明治乳業事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 昼の休憩時間中に、工場食堂で「赤旗」号外を従業員に配布したことを理由に、就業規則に基づき戒告処分に付された従業員が、戒告処分の無効確認を請求した事例。(請求認容) |
参照法条 | : | 労働基準法34条3項 |
体系項目 | : | 休憩(民事) / 休憩の自由利用 / 休憩中の政治活動 |
裁判年月日 | : | 1976年12月7日 |
裁判所名 | : | 福岡地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和50年 (ワ) 543 |
裁判結果 | : | 認容(控訴) |
出典 | : | 時報855号110頁 |
審級関係 | : | 上告審/01905/最高三小/昭58.11. 1/昭和55年(オ)617号 |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 原告の前記各ビラ配布が形式的に就業規則第一四条労働協約第五七条に抵触することから直ちに本件処分が有効であるかなお検討を要する。 被告会社の就業規則並びに労働協約には直接、会社構内で従業員が政治活動をすることを禁止した条項は見当らない。しかし社内での政治活動は、その方法として従業員が会社構内の一定場所に集合したり、印刷物を掲示或はビラの配布等によってなされることが多いことからすれば、右各条項によって実質的には政治活動を制限したものと見て差しつかえないであろう。 使用者が会社構内に於て企業施設を利用して行う従業員の政治活動を就業規則でもって制限ないし禁止することが認められるのはそれが会社の有する施設管理権を一時的にせよ侵害するからに外ならない。つまり使用者は本来企業施設を経営目的に従って管理し、従業員の行為を必要な限度で規律し得ることは当然である。 しかし、休憩時間は労働基準法第三四条三項により従業員の自由使用が保障されており、その時間は労働者が労働義務から解放され、使用者の労働指揮権は及ばないのであるからその間は労働者の自由な利用に委ねるのが原則である。 このようにみてくると使用者の施設管理権と労働者の会社構内における休憩時間利用の自由(本件についていえば更に政治活動の自由)とが矛盾、衝突するような場合もあり得ようがこの様な場合、前記制限規定を合理的に解釈すると、その制限は、休憩時間中に於る会社施設内の政治活動により、現実かつ具体的に経営秩序が紊され経営活動に支障を生じる行為、たとえば喧噪、強制にわたるなどして他の従業員の休憩時間の自由利用を妨げ、ひいては就労に悪影響を及ぼすものに限定されるべきであって、かく解してこそはじめて休憩時間中に於ける従業員の政治活動を制限する規定の有効性が根拠づけられるものと解される。また労働組合が会社構内において被告会社との間で、その政治活動を制限する労働協約を締結することは前述の使用者の施設管理権の効用に鑑み合理的理由なしとはいえない。しかし、組合員個人の政治活動を制限しこれを有効視できる限度はすでに就業規則第一四条について解釈したのと同様に解するのが相当である。 そこで以上述べてきたところを本件について見るのに、原告は前認定のとおりいずれも昼休みの休憩時間中に会社食堂内で六月二四日には前記内容の赤旗号外約二〇枚を、七月六日は約四六枚のビラを配布したというのであってしかもその具体的態様については、《証拠略》をも合わせ考えれば、いずれも食事中の従業員数人に一枚ずつ平穏に手渡し、他は食堂の卓上に本件ビラを静かに置いたもので、従業員が右ビラを受け取るか否かは全く各人の自由に委されており、右ビラの受領を強制した事実もない。なお右ビラ配布に要した時間も数分間で終了したものであって各人がこれを閲読するか或は廃棄するかは各従業員の自由意思に委されていたものと推認することができる。 もっとも前記各ビラは日本共産党の推せんする立候補者に関する選挙運動であるからこれに反対する従業員の存することは容易に推認しうるところであるが(たとえば、《証拠略》によると社内には公明党支持グループもある)、従業員がこれをかりに閲読したことによって職場の規律を乱し、作業能率を低下させるとか、他の従業員の休憩時間中の自由利用を現実かつ具体的に妨害したとか、従業員相互間の紛争を誘発・助長したとかは到底考えられないしその証拠も見当らない。 以上の次第であるから原告の政治活動としてなされた本件ビラ配布行為は就業規則第一四条、労働協約第五七条に該当しないものと解するのが相当である。 |