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ID番号 01340
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 国鉄郡山工場賃金カット事件
争点
事案概要  国鉄郡山工場の労働者が、郡山工場以外の場所(宮城県岩波駅)における集団行動に参加するため年休を請求したのに対して郡山工場長が年休を認めず当日の賃金をカットしたため、右労働者がカット分の賃金を請求した事例。
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 年休権の法的性質
年休(民事) / 時季指定権 / 「時季」の意味
年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 年休利用の自由
裁判年月日 1973年3月2日
裁判所名 最高二小
裁判形式 判決
事件番号 昭和41年 (オ) 1420 
裁判結果 破棄自判
出典 民集27巻2号210頁/時報694号10頁/タイムズ292号231頁/裁判所時報613号1頁/裁判集民108号343頁
審級関係 控訴審/01405/仙台高/昭41. 9.29/昭和39年(ネ)448号
評釈論文 阿原稔・日本労働法学会誌42号122頁/花見忠・ジュリスト540号117頁/宮島尚史・判例評論171号28頁/芹沢寿良・労働経済旬報887号10頁/山本吉人・労働判例171号4頁/秋田成就・民商法雑誌69巻4号744頁/秋田成就・労働判例百選<第三版>〔別冊ジュリスト45号〕128頁/松岡三郎・中央労543号2頁/須田四郎・公企労研究15号85頁/菅野和夫・色川,石川編・最高裁労働判例批評〔2〕民事編433頁/菅野和夫・法学協会雑誌91巻8号1280頁/西川美数・ジュリスト530号115頁/青木宗也・法律時報45巻7号105頁/倉地康孝・経営法曹会議編・最高裁労働判例2巻303頁/倉地康孝・労働経済判例速報818号11頁/則定衛・ひろば26巻8号49頁/大下慶郎・労働経済判例速報815号20頁/田代健・地方公務員月報118号53頁/島田信義・季刊労働法88号174頁/藤本正・月刊労働問題184号116頁/有泉亨・労働法学研究会報994号1頁/蓼沼謙一・労働法律旬報832号17頁/蓼沼謙一・労働法律旬報837号37頁/蓼沼謙一・労働法律旬報840号26頁
判決理由  〔年休―年休権の法的性質〕
 労基法三九条一、二項の要件が充足されたときは、当該労働者は法律上当然に右各項所定日数の年次有給休暇の権利を取得し、使用者はこれを与える義務を負うのであるが、この年次休暇権を具体的に行使するにあたっては、同法は、まず労働者において休暇の時季を「請求」すべく、これに対し使用者は、同条三項但書の事由が存する場合には、これを他の時季に変更させることができるものとしている。かくのごとく、労基法は同条三項において「請求」という語を用いているけれども、年次有給休暇の権利は、前述のように、同条一、二項の要件が充足されることによって法律上当然に労働者に生ずる権利であって、労働者の請求をまって始めて生ずるものではなく、また、同条三項にいう「請求」とは、休暇の時季にのみかかる文言であって、その趣旨は、休暇の時季の「指定」にほかならないものと解すべきである。
 年次有給休暇に関する労基法三九条一項ないし三項の規定については、以上のように解されるのであって、これに同条一項が年次休暇の分割を認めていることおよび同条三項が休暇の時季の決定を第一次的に労働者の意思にかからしめていることを勘案すると、労働者がその有する休暇日数の範囲内で、具体的な休暇の始期と終期を特定して右の時季指定をしたときは、客観的に同条三項但書所定の事由が存在し、かつ、これを理由として使用者が時季変更権の行使をしないかぎり、右の指定によって年次有給休暇が成立し、当該労働日における就労義務が消滅するものと解するのが相当である。すなわち、これを端的にいえば、休暇の時季指定の効果は、使用者の適法な時季変更権の行使を解除条件として発生するのであって、年次休暇の成立要件として、労働者による「休暇の請求」や、これに対する使用者の「承認」の観念を容れる余地はないものといわなければならない。
 〔年休―時季指定権―「時季」の意味〕
 ちなみに、労基法三九条三項は、休暇の時期といわず、休暇の時季という語を用いているが、「時季」という用語がほんらい季節をも念頭においたものであることは、疑いを容れないところであり、この点からすれば、労働者はそれぞれ、各人の有する休暇日数のいかんにかかわらず、一定の季節ないしこれに相当する長さの期間中に纒まった日数の休暇をとる旨をあらかじめ申し出で、これら多数の申出を合理的に調整したうえで、全体としての計画に従って年次休暇を有効に消化するというのが、制度として想定されたところということもできるが、他方、同条一項が年次休暇の分割を認め(細分化された休暇のとり方がむしろ慣行となっているといえるのが現状である)、また、同条三項が休暇の時季の決定を第一次的に労働者の意思にかからしめている趣旨を考慮すると、右にいう「時季」とは、季節をも含めた時期を意味するものと解すべく、具体的に始期と終期を特定した休暇の時季指定については、前叙のような効果を認めるのが相当である。
 〔年休―年休の自由利用(利用目的)―年休利用の自由〕
 以上のとおり、年次有給休暇の権利は、労基法三九条一、二項の要件の充足により、法律上当然に労働者に生ずるものであって、その具体的な権利行使にあたっても、年次休暇の成立要件として「使用者の承認」という観念を容れる余地はない(労基法の適用される事業場において、事実上存することのある年次休暇の「承認」または「不承認」が、法律上は、使用者による時季変更権の不行使または行使の意思表示にほかならないことは、原判決説示のとおりである)。年次休暇の利用目的は労基法の関知しないところであり、休暇をどのように利用するかは、使用者の干渉を許さない労働者の自由である、とするのが法の趣旨であると解するのが相当である。
 〔年休―年休の自由利用(利用目的)―一斉休暇闘争〕
 いわゆる一斉休暇闘争とは、これを労働者がその所属の事業場において、その業務の正常な運営の阻害を目的として、全員一斉に休暇届を提出して職場を放棄・離脱するものと解するときは、その実質は、年次休暇に名を藉りた同盟罷業にほかならない。したがって、その形式いかんにかかわらず、本来の年次休暇権の行使ではないのであるから、これに対する使用者の時季変更権の行使もありえず、一斉休暇の名の下に同盟罷業に入った労働者の全部について、賃金請求権が発生しないことになるのである。
 しかし、以上の見地は、当該労働者の所属する事業場においていわゆる一斉休暇闘争が行なわれた場合についてのみ妥当しうることであり、他の事業場における争議行為等に休暇中の労働者が参加したか否かは、なんら当該年次有給休暇の成否に影響するところはない。けだし、年次有給休暇の権利を取得した労働者が、その有する休暇日数の範囲内で休暇の時季指定をしたときは、使用者による適法な時季変更権の行使がないかぎり、指定された時季に年次休暇が成立するのであり、労基法三九条三項但書にいう「事業の正常な運営を妨げる」か否かの判断は、当該労働者の所属する事業場を基準として決すべきものであるからである。
 本件において原判決の確定するところによれば、前述のように、上告人らは、いずれも問題の当日である昭和三七年三月三一日の一日または半日を休暇の時季として指定したが、被上告人工場長は時季変更権を行使しなかったというのであって、この事実に本件にあらわれた諸般の事情を斟酌すれば、優に、上告人らの右時季指定が被上告人郡山工場の事業の正常な運営を妨げるものでなかったことを知らしめるに足るのである。したがって、岩沼駅における行動のいかんにより上告人らに別個の法律上の責任が生じうるか否かはともかくとして、その事実は、なんら本件年次有給休暇の成否に影響しうるものではない。