ID番号 | : | 01350 |
事件名 | : | 労働賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 釧路交通事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 年休を請求、取得した従業員らが、年休を欠勤として扱われ賃金を支払われなかったので、当該賃金および無事故精勤手当の支払を請求した事例。(請求認容) |
参照法条 | : | 労働基準法39条1項 |
体系項目 | : | 年休(民事) / 年休の成立要件 / 出勤率 |
裁判年月日 | : | 1976年12月22日 |
裁判所名 | : | 釧路地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和51年 (ワ) 127 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例272号40頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 矢邊學・労働判例278号4頁 |
判決理由 | : | 年休制度の趣旨は、労働者をして一定期間賃金の保障を受けさせながら労務から離脱できることとし、その自由な休息により過去の労働による精神的、肉体的労働を回復させ、これにより労働力の維持培養を図り、あわせて健康な最低限度の生活を保障することにあるところ、このような制度の基盤は、使用者にとって一定期間の継続勤務者に対してその提供された勤勉な労働につき慰労を与えるべき物質的、精神的条件が具備されていることに拠るものといえる。そして、労基法三九条一項は、右のごとき年休を付与するに値する勤怠評価の基準を、全労働日の八割以上の出勤率と定め、欠勤の多い者を除外すべく右出勤率を保有する労働者に限定して年休を享受する権利を与え、また、同条五項は、労働者が休業した期間のうち右出勤の算定にあたり出勤したものとみなす特定のものを掲記している。これら年休制度および労基法の趣旨等からすれば、出勤率の算定の基礎となる全労働日とは、労働者が労働協約・就業規則等により労務の提供を義務づけられ、かつ、その出勤が労使間で予定されているために、労務の提供ないし不提供が出勤ないし欠勤のいずれかに取扱われて勤怠評価の対象となるすべての日をいうものと解することができる。 2 ところで、労働者が就労義務のある日にストライキにより労働しなかった場合、労働者は、右ストライキ期間中その労働義務を免れうる筋合ではないが、正当なストライキが労働者の権利として許容され、これによって使用者に加えた損害について使用者に対し債務不履行責任を負わないものとされており(労働組合法八条)少なくともその限りにおいて、右ストライキ期間中労使間において労働者の出勤が予定されなくなるのであるから、その労務不提供をもって出勤とも欠勤とも扱われず、したがって右期間は勤怠の状況を評価しうる対象となしがたい。それ故、正当なストライキの期間は、労基法三九条一項所定の全労働日に算入されるべきではないといわざるをえない。もっとも、前述の年休制度の趣旨および基盤等に鑑ると、長期間にわたるストライキが行われたために全労働日が平常年次に比較して極めて少ないため、社会通念上、継続勤務者が一年間に出勤する日数として異常に僅少と認められ、出勤日数、出勤率等諸般の事情から、もはや年休を付与すべき実質的合理的な理由が失われるような場合には、労働者が使用者に対し所定の出勤率を有するものとして年休の権利を行使することは、信義則に反し権利の濫用として許されないものというべきである。 3 これを本件についてみるに、被告は原告らのストライキによる不就労が正当な争議行為によるものであることについて明らかに争わないからこれを自白したものとみなすべく、この事実と前記争いのない事実によれば、原告らに関する全労働日は、原告らが労働を義務づけられた日数合計三〇〇日からストライキの期間を控除した日数、すなわち、原告X1につき二一〇日、原告X2につき二一一日、原告X3につき一七八日とそれぞれ算出されるところ、原告X1、同X2の各出勤率は一〇〇パーセント、原告X3のそれは九八・三パーセントであって、いずれも所定の出勤率を優に充足していることが明らかであるから、原告らは労基法三九条一項所定の年休をその有する休暇日数の範囲内で享受する権利があるものというべきである。しかるところ、原告らはいずれも入社以来初めて年休を指定したものであり、原告らの右各全労働日数は、平常時に比べて原告X1、同X2につき七〇パーセント(小数点以下切捨て)、同X3につき五九パーセント(小数点以下切捨て)に相当すること、その他原告らの出勤日数、出勤率等諸般の事情からみて、右権利の行使が信義則に反し権利の濫用であると断ずることはできないものと考えられるから、原告らは所定の年休を有効に取得しうる筋合である。そして被告は、原告らの本件各年休の指定に対し、労基法三九条三項所定の時季変更権を適法に行使したことの主張、立証がないから、本件各年休は原告らの指定どおり成立したものといわざるをえない。したがって、被告は原告らに対し、本件各年休期間につき所定の賃金を支払う義務を免れることができない。 |