全 情 報

ID番号 01351
事件名 賃金請求控訴事件
いわゆる事件名 釧路交通事件
争点
事案概要  労働基準法第三九条一項にいう「全労働日」にはストライキにる不就労日も含まれるとして、当該年度に一〇〇日前後のストライキによる不就労日があった労働者の年休取得を否定し、労働者が年休として指定して就労しなかった日の賃金(二日分)のカットを行った会社に対して、カットされた賃金の支払が求められた事例。(一審 請求認容、二審 控訴棄却、、請求認容)
参照法条 労働基準法39条1項
体系項目 年休(民事) / 年休の成立要件 / 出勤率
裁判年月日 1978年7月31日
裁判所名 札幌高
裁判形式 判決
事件番号 昭和51年 (ネ) 353 
裁判結果 棄却(確定)
出典 労働民例集29巻4号559頁/時報917号116頁/タイムズ382号110頁/労働判例304号36頁/労経速報998号9頁
審級関係 一審/01350/釧路地/昭51.12.22/昭和51年(ワ)127号
評釈論文 水野勝・昭和53年度重要判例解説〔ジュリスト693号〕242頁/水野勝・労働判例322号16頁/長淵満男・甲南法学19巻2~4合併号83頁
判決理由  ところで一般に、労働日とは、労働契約上、労働者が出勤して労働すべきものと定められている日をいい、具体的には就業規則、労働協約等で労働日として定められた日のことであり、前一箇年間の全労働日とは前一箇年間の総暦日のうち所定の休日を除いた日の全部をいうものである。労働基準法第三九条一項にいう「全労働日」も、本来は、これをいうものであることは明らかである(以下、かかるものとしての全労働日を、「本来の全労働日」ということにする)。
 そこで労基法第三九条の適用上、労働者が前一箇年間に、「全労働日の八割以上出勤」したか否かを見るに当って、その労働者が正当なストライキによって就労しなかった日を右「全労働日」に含めるべきか否かについて考察するに、労働者が団体行動をする権利は憲法の保障するところであり(憲法第二八条)、労働組合法上も使用者は、労働者が争議行為としての正当なストライキを行なったとしても、その労働者に対して民事責任を追及し得ない(同法第八条)のみならず、そのことの故をもって不利益な取扱をしてはならないこととされている(同法第七条一号)のであるから、その労働者に対する勤怠評価においてもそのことの故をもって勤務を怠ったと評価してはならないものといわなければならない。しかるところ、労基法第三九条の適用上、労働者が前一箇年間に「全労働日の八割以上出勤」したか否かを見るに当って、その労働者が正当なストライキによって就労しなかった日を「全労働日」の中に含めることにすると、労働者は正当なストライキを行なったがために勤務を怠ったと評価されるのと同様の結果を招来することになる。これは憲法ないし労働組合法の前示各法条の趣旨と調和しない。しかしながら他方、労働者が正当なストライキのために就労しなかった日は「全労働日」に含まれないとの前提のもとに、労働者が実際に出勤した日数が「本来の全労働日」の八割をわる場合にも、労基法第三九条所定の要件が充足される限り、使用者はその労働者に対して所定の日数の有給休暇を与えなければならないものとすることは、前叙のとおり、同法同条所定の有給休暇には、一定期間継続勤務した労働者の勤勉な労働に対する報償という趣旨も含まれているものであることを無視してしまうものであって、その無視の程度は、労働者が実際に出勤した日数が少ければ少ない程それだけ高まるものといわざるを得ない。
 それで、労基法第三九条の前叙の如き立法趣旨及びこれと憲法や労働組合法における前示関係規定との調和を考慮して、労基法第三九条一項にいう「全労働日」の中には、労働者が正当なストライキのため就労しなかった日数は含まれないものと解すると共に、労働者が同法同条同項によって六労働日の有給休暇請求権を有する場合であっても、その出勤日数が「本来の全労働日」の八割をわる場合は、「本来の全労働日」の八割の六分の一に当たる出勤日数につき有給休暇一日の割合によって、その全出勤日数についての有給休暇日数を算出し、これを超える日数の有給休暇請求権を行使することは、信義則に反し権利の濫用として許されないものと解するのが相当である。