全 情 報

ID番号 01428
事件名 懲戒処分無効確認等請求控訴事件
いわゆる事件名 電々公社横手事件
争点
事案概要  原告の年休請求に対し被告が時季変更権を行使したにもかかわらず原告が当該日に欠勤したため戒告処分及び賃金カットがなされたので原告が処分の無効確認と賃金支払を求めた事例(一審一部認容、二審被告側控訴認容)。
参照法条 労働基準法39条4項
体系項目 年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 違法行為への参加
裁判年月日 1985年6月17日
裁判所名 仙台高秋田支
裁判形式 判決
事件番号 昭和58年 (ネ) 77 
裁判結果 一部取消
出典 タイムズ566号238頁/労働判例454号4頁/訟務月報32巻3号520頁
審級関係 上告審/03095/最高三小/昭62. 9.22/昭和60年(オ)989号
評釈論文 中島圭一・地方公務員月報271号44~51頁1986年2月
判決理由  右認定の事実をもとに本件時季変更権行使の適否について検討してみると、公社は国民の日常生活上一刻もゆるがせにできない電気通信役務をその事業内容とし、横手統話中はその現場部門として二四時間勤務体制を敷いていることは前記のとおりであって、土曜日の午後のような最低配置人員配置時に年休時季指定がなされれば、右の時間帯は無配置状態となるから、それだけで事業の正常な運営に支障を生ずるものということができる。
 被控訴人は、職員の年休取得により無配置状態を生ずる場合には、公社側としては勤務割を変更するなどして代替者を確保すべき義務がある旨主張するが、公社側にそのような義務があるものと解すべき理由はない。
 (中 略)
 しかしながら《証拠》によれば、横手統話中における最低配置人員配置時の予定業務は平常勤務時とは異なり定期の試験点検や諸設備の建設等の作業は実施せず、専ら特殊技能を要しない各種通信機器の監視や障害修理等の保守業務に限られていることが認められ、横手統話中では本件以前において最低配置人員配置時でも交替勤務者の年休取得についてできるだけの便宜を図っていたことは前記のとおりであるから、右の作業内容や年休取得の実情に照らせば、代替勤務者を確保することによって欠務状態を解消することが適当でない特別の事情がある場合を除いて、年休指定の時季が最低配置人員配置時であることから直ちに事業の正常な運営に支障を生ずるものとして時季変更権を行使することは権利の濫用として許されないものと解するのが相当である。
 本件の場合においては、当時成田空港の建設、開港に反対する一連のいわゆる成田闘争の過程で違法行為を犯した者が多数逮捕され、その中に公社の職員が含まれていたため、国民から公社職員の労務管理や服務規律の在り方につき激しい非難が加えられたことから、公社副総裁名義をもって各電気通信局長に宛て職員の労務管理に留意し、服務規律の厳正化を図るようとの指示がなされ、東北電気通信局管内でも同局長を通じて各現場の責任者に右の趣旨が伝えられ、しかも五月二〇日に予定される成田空港再開港日をひかえて過激派らによる公社施設の破壊活動に備えて特別災害対策がとられるという緊迫した情勢下にあった。
 右の時期に被控訴人から出された年休時季指定に対し、A所長は格別の理由もないのに安易に勤務割を変更するなどの方法により被控訴人の年休取得によって生ずる欠務状態を解消してまで被控訴人に年休取得をさせることは右の指示に副わないし、まして被控訴人の年休取得の目的が右指示の直接の契機となった成田闘争に関連する集会参加にあるからには、なおさら適当ではないとの判断の下に、勤務割を変更するなどの方法で代替勤務者確保の措置をとらなかったのもやむを得ないものがあり、従って本件は右にいう特別の事情のある場合ということができる。
 そうすると被控訴人がその請求どおり年休を取得し就労義務を免れるものとすれば、五月二〇日午後は職員無配置状態となり(もっとも当時横手統話中では特別災害対策を実施中で、同日午後もA所長及びB巡保長が出勤していたが、両名とも不時の事態に対処すべく所内に待機していたのであるから、同統話中の本来の事業に関しては、なお職員無配置状態というを妨げない。)公社の事業の正常な運営に支障を来たすことになるから、右の事由に基づき被控訴人のした年休時季指定に対し、時季変更権を行使したのは適法であり、従って被控訴人のした本件年休時季指定はその効果を生じなかったものといわなければならない。