全 情 報

ID番号 01429
事件名 不当利得金請求事件
いわゆる事件名 北海道開発局事件
争点
事案概要  一斉休暇闘争に参加した被告らに対し原告国が右当日分の賃金カットをあらかじめ行うことができなかったので過払いが生じているとしてその返還を求めた事例(一部認容)。
参照法条 労働基準法39条1項
労働基準法39条2項
体系項目 年休(民事) / 年休の自由利用(利用目的) / 一斉休暇闘争・スト参加
裁判年月日 1985年9月26日
裁判所名 札幌地
裁判形式 判決
事件番号 昭和52年 (ワ) 906 937 
昭和52年 (ワ) 940 1115 
裁判結果 一部認容
出典 時報1170号22頁/労働判例461号28頁/訟務月報32巻5号954頁
審級関係
評釈論文 ・季刊公企労研究66号112~115頁1986年3月/慶谷淑夫・判例評論327〔判例時報1183〕58~61頁1986年5月
判決理由 〔年休-年休の自由利用(利用目的)-一斉休暇闘争〕
 労働者がその所属の事業場において、その業務の正常な運営の阻害を目的として、全員一斉に休暇届を提出して職場を放棄・離脱する形態のいわゆる一斉休暇闘争は、休暇届の提出後に使用者の時季変更権の行使(労基法第三九条第三項)がなされた場合においても、闘争参加者はこれを全く無視し、休暇届の提出をもって当然に休暇を取得したとしてその期間一方的に職場を放棄・離脱するものであるから、休暇の請求及びその行使という形式をとってはいても、その実質は同盟罷業と何ら異なるものはない。したがって休暇届の提出という形式の如何にかかわらず本来の年次有給休暇権の行使ではないから、一斉休暇の名の下に同盟罷業に入った労働者の全部について賃金請求権は発生しないものと解すべきである(最高裁昭和四八年三月二日判決・民集二七巻二号二一〇頁参照)。この理は一般職非現業の国家公務員の場合であっても同様であって、一斉休暇闘争に参加する目的で形式上年次休暇の申請をしたとしても、それは本来の年次休暇の申請ではあり得ず、人事院規則一五-六に基づく所属機関の長による承認、不承認を問題とするまでもなく、すでに不適法なものというべきである。そして、いわゆる一斉休暇闘争の実質が同盟罷業であることに着目すれば、右にいう「全員一斉に」とは、「休暇闘争に参加する者全員が一斉に」という意味に理解すべきものである。
 被告らは、一斉休暇闘争の目的で年次休暇の請求及びその行使がなされたか否かをもって年次休暇の成否を論ずることは年次有給休暇自由利用の原則に反する旨主張する(被告の主張1)が、前示のとおり一斉休暇闘争の場合には、その実質は同盟罷業にほかならず、年次休暇の請求及びその行使という形式にかかわらず右は本来の年次休暇の請求及びその行使の場合とみることはできないのであるから、年次休暇自由利用の原則が妥当する場合とは全く次元を異にするものである。よって、被告らの右主張は採用できない。
 (中略)
 (二) そこで以上の事実をもとにして被告らが本件一斉休暇闘争に参加したものであるか否かについて検討するに、前示のとおり、いわゆる一斉休暇闘争は、その実質において同盟罷業にあたると解すべきところ、年次休暇の申請者が一斉休暇闘争に参加したか否かは、年次休暇申請の際に申請者が当該申請に係る日時が休暇闘争日であることを認識しながら休暇闘争に参加することを認容したうえで申請を行ない、当該日時に欠勤したか否かによって決すべきであり、そして申請者が休暇闘争に参加することを認容したことは、休暇闘争に至る経緯、組合の組合員に対する休暇闘争方針の宣伝、指導状況、組合員全体の休暇闘争に対する参加状況、申請者の組合における地位、休暇闘争で果たした役割、申請者の申請行為の態様(申請書の記載内容、申請の方式、組合役員の関与の有無等の事情)、当局の調査に対する申請者の対応状況等の事情を総合して外形的客観的に判断すべきである。このように申請者の認容の意図を外形的客観的に判断すべきことは、一斉休暇闘争がこれに参加する個人に着目すれば年次休暇の申請及びその行使という形式をとっているため、本来の年次休暇の申請及びその行使の場合と判別し難い面を有することによるものである。
 なお、一般に年次休暇が有効に成立した場合には、休暇をどのように利用するかは労働者の自由であるから、当局が年次休暇の申請者に対し、休暇の使途を質問し、その返答如何によって該申請者を不利益に取扱うことは許容されるべきではないと考えられるが、これはあくまでも適法な年次休暇の申請がなされた場合のことであって、本件のごとく申請に係る日時に一斉休暇闘争が予定され、その手段として形式的には年次休暇の申請が大量になされているという異常事態においては、当局において具体的な申請が適法な申請か否かを区別するため、申請者にその申請の趣旨を質問し、その対応をもって一斉休暇闘争参加目的の有無を判断するための一資料とすることは許されるものというべきである。