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ID番号 01453
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 エヌ・ビー・シー工業事件
争点
事案概要  女子従業員らが、生理休暇を欠勤扱いとして精皆勤手当を減額されたので、その減額分の支払を請求した事例。(請求棄却)
参照法条 労働基準法68条
体系項目 女性労働者(民事) / 生理日の休暇(生理休暇)
裁判年月日 1974年5月27日
裁判所名 東京地八王子支
裁判形式 判決
事件番号 昭和47年 (ワ) 31 
裁判結果 棄却(控訴)
出典 時報745号95頁/タイムズ319号259頁
審級関係 上告審/01455/最高三小/昭60. 7.16/昭和55年(オ)626号
評釈論文 山口浩一郎・ジュリスト585号151頁/山崎雄司・季刊労働法94号90頁/水野勝・労働判例206号11頁/島田信義・労働法律旬報860号4頁
判決理由  原告らが昭和四六年一一月に生理休暇をそれぞれ二日間ずつ取得したこと、被告会社が昭和四六年一一月期の精皆勤手当支給の算定に際し、生理休暇取得日数を欠勤日数に算入し、原告らに対し出勤不足日数を二日として、精皆勤手当につき四、〇〇〇円を控除し各一、〇〇〇円を支給したことについては、当事者間に争いがない。原告らが請求原因において主張するところは、必ずしも明らかではないけれど、女子の生理休暇取得日数を精皆勤手当の支給において、欠勤日数に算入することは、当事者間に合意(労働協約あるいは労働契約)があろうとなかろうと、実質的に労基法六七条の趣旨に反することになるので、許されないということのようである。
 そこで、右主張を検討するに、民法は雇傭契約を「労務」と「報酬」との交換契約すなわち労働の給付と賃金の支払いとが対価的牽連関係にたつ双務有償契約として捉えている(民六二三条)が、本件の精皆勤手当も精皆勤者に対する報償とその奨励にあることは明らかであるから、労働の給付と精皆勤手当の支給とは対価関係にあり、その限りでは「労働なければ賃金なし」の原則があてはまるといわねばならぬ。そこで、労働者の責に帰すべからざる事由による労働不能の場合は、使用者の責に帰すべき事由によるものでない限り、当事者双方の責に帰すべからざる事由による労働不能として、労働者は精皆勤手当の支給請求権を失なうことになる(民五三六条一項)。
 ところで、生理休暇について労基法六七条は、使用者は生理日の就業が著しく困難な女子、または、生理に有害な業務に従事する女子が生理休暇を請求したときは、その者を就業させてはならない旨定めているが、これは一般的には生理現象は就労の障害にはならないが、主観的に困難を感ずる者および客観的に困難をともなうと考えられる業務の従事者には、要求があれば休暇を与えねばならないとして、女子労働者の保護をはかったものである。すなわち、生理休暇は雇傭契約における当事者双方の責に帰すべからざる労働不能の一事例といえる。したがって、労働契約、労働協約あるいは就業規則に格別の定めがない限り、生理休暇取得者は、当然に精皆勤手当請求権を取得するいわれはない。すると右の如き格別のとり決めをしていない本件にあっては生理休暇取得日数を精皆勤手当の支給に際し、出勤日数に算入することを請求することは、できないものといわねばならない。
 以上説示したところから既に明らかであるが、生理休暇は就労制限なのであって、労基法上生理休暇を有給とする旨の規定はなく、この点は民法にゆだねられているのであり、労働協約(あるいは労働契約)に定めた内容(本件に即して言えば、精皆勤手当の支給)が、結果として生理休暇を取得した女子に給与の面において不利に作用することがあったとしても(仮りに、生理休暇日に出勤した女子に特別の手当を支給する旨の労働協約―労働契約あるいは就業規則―が、労基法六七条の趣旨に反し無効である場合があるとしても、そのことから直ちに右の如き無効とされることのある協約と、生理休暇を取得した女子に結果として不利益を与えることになる本件の如き労働協約―労働契約あるいは就業規則―とを同視することは本件における原告らの主張立証からは困難である。)そのことから直ちに右協約または契約の内容(生理休暇取得日数を欠勤日数に算入する旨の内容)が労基法第六七条の趣旨に反し、または同法第九一条の趣旨に反し無効であるとか、あるいは公序良俗に反して無効であるとかということまではいえない。憲法は、労働者に団結権を基本的人権の一つとしてこれを保障している(憲法二八条)が、国家は労働基準法その他の法律によって労働条件の最低限度を示すほかは、原則として労使間の労働条件に干渉せず、労働者の団結権を通じた自主的な活動による労働条件のとり決めに任せているのである。