全 情 報

ID番号 01455
事件名 未払賃金請求事件
いわゆる事件名 エヌ・ビー・シー工業事件
争点
事案概要  被告会社には精皆勤手当制度があるが生理休暇取得日も欠勤扱いとされたため生理休暇を取得して手当を減額された原告らが右制度は生理休暇の趣旨に反し労働基準法違反であるとして右減額分の支払を求めた事例。(上告棄却)
参照法条 労働基準法68条
体系項目 女性労働者(民事) / 生理日の休暇(生理休暇)
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 生理休暇
裁判年月日 1985年7月16日
裁判所名 最高三小
裁判形式 判決
事件番号 昭和55年 (オ) 626 
裁判結果 棄却
出典 民集39巻5号1023頁/時報1168号150頁/タイムズ568号52頁/金融商事732号46頁/労働判例455号16頁/労経速報1227号3頁/裁判所時報917号9頁/裁判集民145号163頁
審級関係 控訴審/01454/東京高/昭55. 3.19/昭和49年(ネ)1309号
評釈論文 ・労政時報2755号58~64頁1985年9月20日/岸野誠一・地方公務員月報274号48~54頁1986年5月/宮本光雄・季刊労働法138号98~105頁1986年1月/山崎敏充・法曹時報41巻3号107~118頁1989年3月/手塚和彰・月刊法学教室61号162~163頁1985年10月/森田武男・最高裁労働判例〔6〕―問題点とその解説358~369頁1986年11月/西村健一郎・民商法雑誌96巻1号93~103頁1987年4月/大脇雅子・ジュリスト849号40~45頁1985年11月15日/中嶋士元
判決理由  〔女性労働者―生理日の休暇(生理休暇)〕
 労働基準法(昭和六〇年法律第四五号による改正前のもの。以下同じ。)六七条は、所定の要件を備えた女子労働者が生理休暇を請求したときは、その者を就業させてはならない旨規定しているが、年次有給休暇については同法三九条四項においてその期間所定の賃金等を支払うべきことが定められているのに対し、生理休暇についてはそのような規定が置かれていないことを考慮すると、その趣旨は、当該労働者が生理休暇の請求をすることによりその間の就労義務を免れ、その労務の不提供につき労働契約上債務不履行の責めを負うことのないことを定めたにとどまり、生理休暇が有給であることまでをも保障したものではないと解するのが相当である。したがって、生理休暇を取得した労働者は、その間就労していないのであるから、労使間に特段の合意がない限り、その不就労期間に対応する賃金請求権を有しないものというべきである。また、労働基準法一二条三項及び同法三九条五項によると、生理休暇は、同法六五条所定の産前産後の休業と異なり、平均賃金の計算や年次有給休暇の基礎となる出勤日の算定について特別の扱いを受けるものとはされておらず、これらの規定に徴すると、同法六七条は、使用者に対し生理休暇取得日を出勤扱いにすることまでも義務づけるものではなく、これを出勤扱いにするか欠勤扱いにするかは原則として労使間の合意に委ねられているものと解することができる。
 〔就業規則―就業規則の一方的不利益変更―生理休暇〕
 ところで、使用者が、労働協約又は労働者との合意により、労働者が生理休暇を取得しそれが欠勤扱いとされることによって何らかの形で経済的利益を得られない結果となるような措置ないし制度を設けたときには、その内容いかんによっては生理休暇の取得が事実上抑制される場合も起こりうるが、労働基準法六七条の上述のような趣旨に照らすと、このような措置ないし制度は、その趣旨、目的、労働者が失う経済的利益の程度、生理休暇の取得に対する事実上の抑止力の強弱等諸般の事情を総合して、生理休暇の取得を著しく困難とし同法が女子労働者の保護を目的として生理休暇について特に規定を設けた趣旨を失わせるものと認められるのでない限り、これを同条に違反するものとすることはできないというべきである。
 (中 略)
 右の事実関係の下においては、被上告人が精皆勤手当を創設し次いでその金額を二倍に増額したのは、所定の要件を欠く生理休暇及び自己都合欠勤を減少させて出勤率の向上を図ることを目的としたものであって、生理休暇の取得を一般的に抑制する趣旨に出たものではないとみるのが相当であり、また、同手当の算定にあたって生理休暇の取得日数を出勤不足日数に算入することにより労働者が失う上記のような経済的利益の程度を勘案しても、かかる措置は、生理休暇の取得を著しく困難とし労働基準法が女子労働者の保護を目的として生理休暇について特に規定を設けた趣旨を失わせるものとは認められないから、同法六七条に違反するものとはいえず、また同法一条二項、一三条に違反するものでもない。そして、右の措置により精皆勤手当を減額することが、生理休暇取得者に対し減給の制裁を定めたものといえないことはもとより、懲罰、損害賠償の予約と同視すべきものともいえないから、これをもって同法九一条に違反するということはできない。