ID番号 | : | 01460 |
事件名 | : | 仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 倉敷紡績事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 未成年者たる元従業員が、退職願は親権者がほしいままに作成して提出したものであるとして労働契約の合意解約の効力を争い、自ら地位保全の仮処分を申請した事例。(申請却下) |
参照法条 | : | 労働基準法59条 民法823条,857条 |
体系項目 | : | 年少者(民事) / 未成年者の賃金 年少者(民事) / 訴訟能力 |
裁判年月日 | : | 1960年10月10日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和35年 (ヨ) 333 |
裁判結果 | : | |
出典 | : | 労働民例集11巻5号1113頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 慶谷淑夫・ジュリスト243号86頁/後藤清・判例評論35号12頁 |
判決理由 | : | 〔年少者―訴訟能力〕 そこで進んで未成年労働者の労働契約の解除或いはその存続態様等につき労使間に紛争がある場合労働者自ら使用者に対し訴訟を提起し、之に附随して仮処分命令等の申請を為し得るかについては、労働基準法等にこれを認めた規定のないこと、前記労働基準法第五九条は賃金請求についてのみ許容せられた例外的規定と解されることから考えて之は許されないものと解すべきである。尤も労働基準法第五八条第一項は親権者又は後見人が未成年者に代って労働契約を締結することを禁じているから未成年者は親権者又は後見人の同意を得て自ら労働契約を締結するの外はないがこのことから直ちに未成年者は独立に労働契約を解除することができ、惹いて解除に関する紛争につき訴訟を提起することができると結論することはできない。それは同法第五八条第二項において未成年者の契約した労働契約が未成年者に不利であるときには親権者等において之を解除することができる権限を与え、未成年者の自由な権限に任かせていないことに徴して明らかである。 〔年少者―未成年者の賃金〕 その規定の趣旨は親権者又は後見人が法定代理権を濫用して未成年者の受くべき賃金を自己に領得し、末成年者にはただ労務に服させるという弊害を除去し、未成年者と雖も自己の労働により得た所産は当該労務者の所得となし未成年者本人においてのみ使用者に対し賃金を請求する権利を有することを認めたものである。 この規定の趣旨を貫徹するためには未成年者において使用者に対し事実上賃金を請求してもその目的を達しないときは独立して賃金請求の訴訟を提起することができるものと解するを相当とする。 〔年少者―訴訟能力〕 次に未成年者の親権者或いは後見人が民法第八二三条、第八五七条の規定により子が職業を営むことを許可して(本件は審尋の全趣旨に照らして考えるとまさしくこの場合に該当する)一旦第三者との労働契約を介して継続的な労働関係に入つた場合には民法第六条第一項を準用して行為能力を有するに至るのではないかとも考えられるけれども、第六条に謂う「営業」とは商業又は広く営利を目的とする事業に限られるのであるが、「職業」の概念は広く、継続的な業務をいい、営利を目的とすると否とを問わないものであって営業よりも広い観念である。従って、民法第八二三条第八五七条により親権を行う者が未成年者に対し職業を営むことを許可したからと言って直ちに同法第六条の営業を許可したものと言うことはできない。民法第六条は自己の計算において事業をする未成年者に対して成年者と同一の能力を有するものと認めたものであって、単に他人の計算における事業に労務を提供するに過ぎない労働者の如き者はこれに含まれないと解すべきである従って本件の申請人の如き未成年労働者は仮令民法第八二三条第八五七条の許可があったとしても、これをもって同法第六条の営業の許可のあったものと認めることはできないから民法第八二三条、第八五七条、第六条を根拠として未成年労働者の訴訟能力を認める論は失当と言うべきである。 |