全 情 報

ID番号 01475
事件名 改正就業規則効力停止仮処分申請事件
いわゆる事件名 秋北バス事件
争点
事案概要  五五歳定年制を導入した就業規則の変更により、解雇された者による効力停止の仮処分申請がなされた事例。(認容)
参照法条 労働基準法90条,93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立
就業規則(民事) / 意見聴取
就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制
裁判年月日 1957年6月27日
裁判所名 秋田地大館支
裁判形式 判決
事件番号 昭和32年 (ヨ) 6 
裁判結果
出典 労基判集137号
審級関係
評釈論文
判決理由  〔就業規則―就業規則の法的性質、就業規則の一方的不利益変更―定年制〕
 凡そ労働者と使用者との間には本来常に労働契約が締結され、個々に、自由なかけ引によって定められねばならないものであるが、一方近代的な経営に於ては大量取引の合理的な処理上から労働条件の劃一化と規格化の要請があり、ここに個別的契約を統一し劃一化、規格化した就業規則が作られることになったものであるから、労働契約の内容に於ても通常就業規則と同一なものが多いのである。しかし労働契約の締結は各個人について見れば本来別々のものであり、時期により使用者の栄枯盛衰によってその内容に異別あるを免れぬものであるから就業規則と異る内容の契約が存することも容易に考えられるところである。以上の如く本来労働契約と就業規則とは互に別個独自の存在でいずれも有効に併存するものである。ただ労働基準法はその労働契約が就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める場合には労働者保護の立場からその部分については労働契約を無効としている(労働基準法第九十三条)が、就業規則で定める基準と同等又はそれよりも労働者に有利な労働条件を定める労働契約が存する場合には之を無効とする旨の規定がない。しかし労使対等の原則と労働者保護という労働法の目的からみて斯様な基準以上の労働契約は就業規則に優先して適用すべきものと解される。
 そうだとすれば就業規則が労働者に不利益に変更されたからといって本来別個の存在である労働契約の内容が変更される理由がなく、労働契約の内容に反するからといって就業規則の変更が許されない筈もない。従って変更された就業規則は改正後に雇入れられた新規の労働者と右就業規則の変更に同意した労働者、つまり変更した就業規則の基準を労働契約の内容に取り入れた労働者だけに適用されることになり、変更前の旧就業規則の基準より有利な内容の労働契約をなしたものは勿論、右就業規則の基準を労働契約の内容とする者に対しては変更された新就業規則は効力を生じないといわなければならない。
 〔就業規則―意見聴取〕
 三、次で申請人等は被申請会社の今次就業規則の変更は労働者の過半数で組織するA労働組合の意見も非組合員の過半数を代表する労働者の意見も聴かず一方的に変更したものであるから労働基準法第九十条第一項に反し無効であると主張するから判断しよう。
 使用者が、就業規則を作成又は変更するについては労働基準法第九十条第一項に従い、当該事業場に、労働者の過半数で組織する労働組合がある場合にはその組合の意見を聴かなければならないことは明かであるが、しかし「本案就業規則は使用者の経営権の作用として、その一方的に定めるところであって、このことはその変更についても異なるところがない。」(昭和二七・七・四最高裁第二小法廷昭二五(ワ)六五号決定)のであり同規定は労使対等の原則を貫く労働法の立場から、労働条件を定めるに当り国家的監督権の発動を促すとともに、一方労働者に対し団体交渉の機会を得しめる訓示的、取締的規定に過ぎないもので効力規定とは解されない。従って労働者の意見を聴かないで一方的に就業規則を変更したとしても、それが、法令並に労働協約に反しない限りそれ自体は有効であって、その変更の効力には少しも影響がない(妥当であるか否かは別問題である)」と解するところ、証人B、同Cの各証言により真正に成立したと認められる疏乙第一号証の一、二、三、第五号証の一、二、成立に争のない乙第二号証(疏甲第三号証と同一内容)前記証人の各証言を綜合すると被申請会社の取締役会は昭和三十二年三月二十六日主任以上の職にある者につきその停年を満五十五才と定めその就業規則の変更を企図し、同月三十日従業員の過半数で組織するA労働組合に対し、之について意見を聴くため同年四月一日午前十時迄の期限附で意見書の提出方を連絡した。しかし右組合からその意見書の提出がなかったので、そのまま行政官庁たる大館労働基準監督署に届出したことが一応認められるところでその経過を検討すると一応とるべき手続を履践してはいるが、甚だ形式的で所謂意見を聴くの態をなしていない。抑々「意見を聴く」とは労働者過半数の意見が十分に陳述された後之が十分に尊重されたという事蹟の存することである。したがって十分の検討の時間的余裕を与え且労働者の意見の理解及採用に十分の配慮と誠実が傾けられた事の存することが必要である。勿論使用者は組合の意見に拘束されるものではない。けれども就業規則の作成変更に当っては労働者の正しい意向が規則に反映し採入れられ労働者の積極的支持のもとになされることが望ましいので労働者の意見を聴くという手続をとらせることにし、その違反に制裁を以て臨み間接に此の手続を強制しているのである。よって本件の措置は甚だ妥当を欠いたと云わねばならない。然乍ら以上のことは前述の通り効力要件でないから、右の事情だけで変更を無効と断ずることはできない。」従って申請人の右の主張も理由がない。