ID番号 | : | 01487 |
事件名 | : | 地位保全等仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 中村産業学園事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 向こう五年間は身分を保障する旨約定していた六八歳の大学教授らが、六六歳定年および七十歳をこえて継続任用を更新しない旨の変更を受けた就業規則を適用されたのに対し、右就業規則は右約定の効力に影響しないとして地位保全等求めた仮処分申請事件。(申請認容) |
参照法条 | : | 労働基準法89条 |
体系項目 | : | 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制 |
裁判年月日 | : | 1971年8月3日 |
裁判所名 | : | 福岡地 |
裁判形式 | : | 決定 |
事件番号 | : | 昭和46年 (ヨ) 254 |
裁判結果 | : | 一部認容 一部却下 |
出典 | : | 労働民例集22巻4号712頁/時報656号92頁/タイムズ270号310頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 大山宏・法学36巻2号131頁 |
判決理由 | : | 労働基準法は就業規則で定める基準に達しない労働条件を定める労働契約について、その部分を無効とし、就業規則で定める基準によることとしている(九三条)が、就業規則で定める基準を超える特約を締結した場合には、これを無効と解すべきいわれはないから、右身分保証ならびに給与に関する契約はもとより有効であるといわねばならない。そして、使用者と労働者間に、定年制に関する一般規定とは異なる労働者により有利な特約がなされている場合は、原則として、一般規定の変更は特約の効力について何ら影響を及ぼすものではないと解されるから、本件のごとく「停年制取扱要領」が廃止され、新たに「定年制取扱規則」が制定されたとしても、前記特約の効力に消長を来すものではなく、その特約は定年制に関する新たな一般規定たる「定年制取扱規則」にも優先するものと解すべきである。 (中 略) なお、この点については、新たな就業規則の作成または変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利な労働条件を一方的に課することとなる場合であっても、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者において、その適用を拒むことは許されないとの見解もあるであろう(最高裁昭和四三年一二月二五日判決参照)。そして、この見解は、労働者の労働条件の集合的処理、特に統一的且つ画一的決定の必要上、使用者と労働者との間の労働条件は使用者の定める就業規則によるという事実たる慣習が成立していることを前提に就業規則の法的規範性を認めようとするものと解される。 しかし、労働条件の集合的処理の要請も、使用者と労働者間での就業規則の定めと異なる個別的な労働条件についての契約(特約)の締結を否定するものではない(労働基準法九三条参照)から、労働条件について当事者間に就業規則の定めと異なる労働者に有利な特約が存し、しかも、その特約によって、少なくとも当該の労働条件については就業規則によらないことの意思が窺知される場合には、当然、前記の見解は、その前提を欠くものとして妥当しないこととなろう。 これを本件について見るに、申請人らと被申請人との間に締結された身分保証ならびに給与に関する契約は、前示のとおり、就業規則の定める定年制についての申請人らに有利な特約であって、すでに認定した事実と疎明によれば、右特約のうち少なくとも定年制に関する限り、就業規則によらないとの意思を認めることは容易である。 |