全 情 報

ID番号 01488
事件名 賃金請求事件
いわゆる事件名 日本貨物検数協会事件
争点
事案概要  遅刻、早退、欠勤につき賃金控除できることに改訂された就業規則規定を適用され賃金控除された従業員らが、遅刻等の場合賃金控除しないことが労働契約の内容ないし労使慣行となっており、右就業規則の改訂の効力は及ばないとして控除された賃金の支払を求めた事例。(請求認容)
参照法条 労働基準法93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与
裁判年月日 1971年9月13日
裁判所名 東京地
裁判形式 判決
事件番号 昭和43年 (ワ) 1277 
昭和44年 (ワ) 11342 
裁判結果
出典 労働民例集22巻5号886頁/タイムズ270号128頁
審級関係
評釈論文 岡村親宜・月刊労働問題164号112頁/光岡正博・法律時報44巻4号132頁/秋田成就・ジュリスト504号143頁/萩沢清彦・判例タイムズ275号85頁
判決理由  近代企業においては、使用者は、多数の労働者を雇用して整然と事業を経営しなければならないから、その指揮命令権は画一的、定型的なものとならざるを得ない。それは、多く就業規則に労働者の就業に当たっての行為準則として規定される。これらの事項は、使用者が右指揮命令権に基づき就業規則を作成して、労働者に周知させたがために拘束力を有するのである。このような労働条件に関する事項は、本来使用者の指揮命令権の範囲内のものであるから、その変更が合理的なものである限り、使用者は、一方的に就業規則を変更して、その内容を改廃することができ、その実質的効力は全労働者に及ぶ。これに反して、賃金支払いに関する事項が当事者を拘束するのは、それが就業規則に規定され、労働者に周知させられたからではなく、使用者と労働者が個別的労働契約の成立要件として合意したからである。使用者の労働者に対する賃金支払義務の発生およびその内容は、当事者の合意を直接の根拠とするものであって、就業規則作成以前の問題である。本件のように遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)の場合に賃金を控除せずに全額を支払って来たということも、第一群の原告らと被告の合意を根拠とすることは、先にみたとおりである。したがって、賃金に関する事項のように労働契約の要素をなす基本的労働条件については、それが一たん合意されて労働契約の内容となった以上、使用者が一方的に作成した就業規則によって、その内容を労働者の不利益に変更することはできないものと解すべきである。
 (中 略)
 そうであるとすれば、改訂就業規則および給与規定は第一群の原告らに実質的効力を及ぼさず、したがって遅刻、早退、欠勤(組合休を含む。)があっても賃金控除をしないという第一群の原告らと被告との雇用契約の内容は依然として変更されていないわけである。