ID番号 | : | 01491 |
事件名 | : | 雇用関係存在確認請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 合同タクシー事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 採用時に存在した会社就業規則中の五五歳停年制を五〇歳停年制に変更した就業規則を適用されて退職扱いとされたタクシー運転手が、右就業規則の一方的不利益変更は本人の同意のない限り労働契約の内容を変更しえないとして雇用関係の存在確認を求めた事例。(請求認容) |
参照法条 | : | 労働基準法89条,2章 |
体系項目 | : | 就業規則(民事) / 就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制 |
裁判年月日 | : | 1970年12月8日 |
裁判所名 | : | 福岡地小倉支 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和43年 (ワ) 421 |
裁判結果 | : | |
出典 | : | タイムズ257号198頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 川口実・法学研究〔慶応大学〕45巻7号101頁/川崎武夫・法律時報43巻11号173頁 |
判決理由 | : | 就業規則は多数の労働者を使用する企業において、使用者が多数の個別的労働契約関係を処理する便宜上、労働契約の内容となる労働条件について統一的かつ定型的な基準を定めたものであって、これに基づいて労働契約が締結されることが予定されているから、労使間で労働契約を締結するに際しては、就業規則所定の労働条件をもって契約の内容とされるのが通常であり、このことから労使間において労働条件は就業規則によるとの事実たる慣習が存在するものと解して妨げない。しかしながら、右のごとき事実たる慣習は、法的規範として承認されるに至っていると解することはできず、労働者の合意によってはじめて法的規範性を有するに至るものである。就業規則を一方的に作成または変更することは自由であって、労働者が、新たな就業規則の作成または変更に異議がないときは、これを労働契約の内容とすることに合意したものと解されるが、労働者がこれによらない旨の意思表示をしたと認められる場合は、新たな就業規則は労働契約の内容とはなっていず、労働者を拘束することはできない。 原告は、本件就業規則をもって労働契約の内容とすることに対し反対の意思表示をしたものというべく、したがって、本件就業規則は原告に対して適用されず、被告は原告に対して本件就業規則によるべきことを主張することはできない。 (中 略) 仮に、被告主張のごとく、就業規則が、労働者の意思いかんを問わず、法的規範性が認められるに至っているとする見解に立つとしても、既存の労働条件と抵触する新たな就業規則の作成または変更は、これによって労働者の既得の権利を奪い労働者に不利益な労働条件を課する場合は原則として許されず、もっぱら右作成または変更にかかる就業規則の労働条件に関する条項が合理性を有する限りにおいて例外的に労働者を拘束する効力を有するものと解せられているのである(最高裁判所判決昭和四三年一二月二五日、民集二二巻一三号三四五九頁)。これを本件についてみた場合、停年前を年令五五才から五〇才に変更することは労働者の既得の権利を奪い労働者に不利益な労働条件であることは明らかなところ、 証人Aの証言によると、福岡陸運局長が個人タクシー事業に免許を与える審査基準のうち年令については五五才まで免許資格があるとされてあり、かつ一旦免許を与えられた場合には申請者が右制限を超える年令に達しても免許が取消されるものとはされていないことが認められるから、自動車運転者が年令五〇才をこえたからといって、その適性が減退するとも、また事故を惹起する危険が増大するとも断定できないし、さらにわが国においては労働者の定年の定めは一般に年令五五才とされており、被告代表者本人尋問により真正に成立したと認められる乙第一〇号証によれば、被告所在地区の同業のタクシー業者の大勢が自動車運転者の定年を年令五〇才に短縮しているとはいえないことを認めることができ、結局、被告の経営上の必要性を考慮してもなお、自動車運転者の定年を年令五〇才に短縮する合理的な理由があるとは認められない。したがって、本件就業規則中この点に関する条項は原告を拘束する効力を有するものとはいえない。 |