ID番号 | : | 01494 |
事件名 | : | 地位保全仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 医療法人一草会事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 病院看護婦が、採用後の就業規則の改訂により新設された五七歳停年制にもとづいて、解雇の意思表示をうけたので、従業員たる地位保全、賃金仮払の仮処分を申請した事例。(申請却下) |
参照法条 | : | 労働基準法89条,93条 |
体系項目 | : | 就業規則(民事) / 就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制 |
裁判年月日 | : | 1973年10月31日 |
裁判所名 | : | 名古屋地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和43年 (ヨ) 1466 |
裁判結果 | : | 却下 |
出典 | : | 労経速報841号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 一般に就業規則は、多数の労働者を使用する近代企業において、その事業を合理的に運営するため、多数の労働契約関係を集合的・統一的に処理する必要があるところから、労働条件についても、統一的かつ画一的に決定するため、個別的労働契約における労働条件の基準として、使用者が定めたものであり、労働者は、経営主体が定める契約内容の定型に従って、附従的に契約を締結せざるを得ない立場に立たされているのが実情であって、右労働条件の定型である就業規則は一種の社会的規範としての性質を有するだけでなく、それが合理的な労働条件を定めているものである限り、経営主体と労働者との間の労働条件はその就業規則によるという事実たる慣習が成立しているものとして、その法的規範性が認められるに至っているということができる。従って、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容の知悉の有無、または、これに対する個別的同意の有無にかかわらず、当然にその適用を受けるものというべきである。 また、就業規則は経営主体が一方的に作成し、かつこれを変更することができるとはいえ、新たな就業規則の作成又は変更によって、既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、原則として、許されないと解すべきであるが、労働条件の集合的処理、特にその統一的かつ画一的な決定を建前とする就業規則の性質からいって、当該規則条項が合理的なものである限り、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由とし、その適用を拒否することは許されず、これに対する不服は団体交渉等の正当な手続による改善にまつのほかはないというべきである(昭和四三年一二月二五日最高裁判所判決参照)。 一般に停年制は、労働者が所定の年齢に達したことを理由として、自動的に又は解雇の意思表示によってその地位を失わせる制度であるから、労働契約における停年の定めは、一種の労働条件に関するものであって、労働契約の内容となりうるものではあるが、労働契約に停年の定めがないということは、ただ雇用期間の定めがないというだけのことで労働者に対して終身雇用を保障したり、将来にわたって停年制を採用しないことを意味するものではなく、法律的には、労働協約や就業規則に別段の定めがない限り、雇用継続の可能性があるということ以上には出でないものであって、労働者にその旨の既得権を認めるものということはできない。従って、被申請人が、その就業規則で新らたに停年を定めたことは、申請人の既得権の侵害の問題を生ずる余地のないものというべきである。 (2)また、停年制は、一般に、老年労働者にあっては当該業種又は職種に要求される労働の適格性が逓減するにかかわらず給与が却って逓増するところから、人事の刷新・経営の改善等、企業の組織および運営の適正化のために行なわれるものであって、一般的にみて必しも不合理な制度ということはできない。 右事実によれば、被申請人病院が本件停年制を採用したことは、一般の精神病院における実情に鑑み、首肯できるものであり、本件停年年齢が五七歳であることも、不当に低すぎるということはない。さらに、就業規則には、再雇用の特則も設けられ、本件停年制を一律に適用することによって生ずる苛酷な結果を緩和する方途も開かれており、その運用の実情も、後記のとおり、看護婦不足の理由とあいまって殆んどその希望者は再雇用されている。 されば、本件停年制が申請人主張のように不合理なものということはできず、その制定の経緯およびその内容に鑑みても十分合理性を有するものといえる。 本件停年制は申請人にも適用があるものと解すべきところ、成立に争いのない疎甲第四号証によれば、申請人の生年月日は明治四四年七月一二日であることが認められるから申請人は満五七歳に達した昭和四三年七月一二日限り、停年により、当然に被申請人病院を退職したものというべきである。 |