全 情 報

ID番号 01505
事件名 従業員地位保全仮処分事件
いわゆる事件名 東香里病院事件
争点
事案概要  従来は、定年制を採用していなかったのにもかかわらず、就業規則を変更し、六〇歳定年制を導入して、結成後間もない労組の執行委員長として活発な組合活動を行っていた労働者を退職扱いにした私立病院に対して、従業員たる仮の地位の保全が求められた事例。(申請認容)
参照法条 労働基準法89条,93条
体系項目 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制
裁判年月日 1977年3月23日
裁判所名 大阪地
裁判形式 判決
事件番号 昭和50年 (ヨ) 338 
裁判結果 認容
出典 労働判例279号23頁
審級関係
評釈論文
判決理由  一般に労働契約に定年の定めがないということは、ただ雇用期間の定めがないというだけのことで、労働者に対して終身雇用を保障したり、将来にわたって定年制を採用しないことを意味するものではないから、定年制のなかったところへ就業規則で新たに定年制を導入したからといって、既得権侵害の問題を生ずる余地はないであろう。しかし、少くともそれが労働者に不利益な労働条件を課するものであり、労働条件の不利益変更をもたらすものであることは、これを否定することができないといわざるをえない。けだし、わが国の現行実定法上、労基法上のいくつかの制限を除けば、一般的に使用者に解雇の自由が認められ、使用者はいつでも、また、特別の理由がなくても労働者を解雇することができるような建前になっているようにみえるけれども、実際上は、客観的にみて相当と認められるような事由がない限り、解雇権の濫用その他の法理によって解雇は認められないのが現実であり、それが判例法としてもほぼ確立するにいたっているとみることができるのであって、雇用期間の定めのない労働契約を締結している労働者といえども、実質上、右のような事由のない限りたやすく解雇されることのない法的地位を保障されているものといわなければならない。しかるに、そのような労働者に対して定年制が適用されることになると、定年に達しさえすれば、他になんらの理由を必要とすることなく、ただ定年に達したというだけの理由に基づいて労働契約関係が解消されることになり、これが事実上右のような法的地位を保障されている労働者にとって不利益な労働条件を課することになることは疑いのないところであるといわざるをえないからである。したがって、病院が就業規則一五条の新設によって前記のごとき定年制を導入したことは、就業規則を一方的に労働者の不利益に変更したものというよりほかはない。
 (中 略)
 以上認定のような事実関係から考えるならば、本件就業規則の改正によって導入された定年制は、従業員の若返りを目的とするものというよりはむしろ、組合対策を狙ったものとみるのが自然であって、それが本件事案において具体的に合理的なものであると認めることはできないといわざるをえないのである。そうだとすると、前説示のとおり、定年制を新たに採用した本件就業規則の変更は信義則に反し、権利の濫用にあたるものであって、これに同意しない申請人平瀬を拘束するものではなく、したがって同申請人は、右規則一五条の規定にかかわらず、現になお病院の従業員たるの地位を有するものといわなければならない。