ID番号 | : | 01507 |
事件名 | : | 賃金請求事件 |
いわゆる事件名 | : | 日本近距離事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 航空乗務員に対して支給される乗務手当に関して、飛行時間が月間四〇時間分に達しない場合には四〇時間相当の乗務手当を支給する旨の就業規則の規定があったにもかかわらず、就業規則を改定して運行業務の休止期間中に月間二〇時間分の乗務手当しか支給しなかった航空会社に対して、月間四〇時間分の乗務手当との差額の支払が求められた事例。(請求認容) |
参照法条 | : | 労働基準法89条,93条 |
体系項目 | : | 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 賃金・賞与 |
裁判年月日 | : | 1978年11月6日 |
裁判所名 | : | 札幌地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和51年 (ワ) 542 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | タイムズ380号144頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | |
判決理由 | : | 本件就業規則により保障された月間四〇時間分の乗務手当は、事実上一般職に対する付加給に相当し、実質的にみていわゆる固定給の一部を構成するものと解されるので、乗務の可能性がない場合、従って運航乗務員の実乗務時間が全然ない場合にも適用されるべきものであり、また実際も当事者間でそのように解され、かつ運用されていたものというべきである。 そうすると、乗務手当の月間四〇時間分の保障は常に乗務、すなわち運航を前提としている旨の被告の主張は採用することができず、その余の点について判断するまでもなく、抗弁1は失当である。 2(抗弁2について) 被告がその主張のように本件就業規則と一体をなす運航乗務員乗務員手当支給基準を変更(改訂)し、昭和五一年二月一日から実施したことは当事者間に争いがなく、右変更が運航乗務員の実質賃金を減額するに等しいものであることはすでに説示したところから明らかであり、従って、それは運航乗務員の労働条件を同乗務員に不利益に変更するもの(この点は被告も自認するところである。)にほかならないが、右変更に関し運航乗務員たる原告らが同意したことについては主張立証がない。 ところで、就業規則は、本来、経営主体が一方的に作成し、かつ、変更できる性質のものではあるけれども、既存の労働契約との関係から、右のように就業規則の変更により労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは原則として許されず、ただ、当該規則条項が合理的なものであるかぎり、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由としてその適用を拒否することは許されないと解すべきである(最大判昭和四三・一二・二五民集二二・一三・三四五九参照)。しかし、右の合理性は個々の労働条件の種類、性格に応じて個別的にその存否を決すべきものであり、賃金、労働時間等労働契約上最も重要な労働条件の変更については、既存の就業規則作成当時予見できなかったような著しい事情の変動が生じ、しかもその変動は客観的経済情勢の変動等経営主体の責に帰し得ない事由によるものであって、従前の労働条件をそのまま維持させることが信義則上も妥当でないと認められるなどの特段の事情がないかぎり、前記合理性の存在は肯認できないと解するのが相当であるところ、本件についてこの点をみてみるのに、証人国領茂満の証言によっても右特段の事情を認めるには足りず、他にこれを認めるべき的確な証拠もない。 そうすると、前記乗務手当支給基準の改訂により、乗務手当を月間四〇時間分保障する旨の既存の労働条件を原告らに不利益に変更することについての合理的理由はないというべきであるから、改訂された右支給基準の合理性も認めがたく、これを原告らに適用することは許されないといわなければならない。 |