ID番号 | : | 01513 |
事件名 | : | 従業員たる地位保全等仮処分申請事件 |
いわゆる事件名 | : | 丸大運送店事件 |
争点 | : | |
事案概要 | : | 従来定年制がない企業において就業規則を改訂して、新たに男子五七歳、女子五二歳の定年制を新設し、右定年制に基づいて雇用関係を終了せしめられた者が、従業員たる地位保全等の仮処分を申請した事例。 |
参照法条 | : | 労働基準法89条,93条 |
体系項目 | : | 就業規則(民事) / 就業規則の法的性質・意義・就業規則の成立 就業規則(民事) / 就業規則の一方的不利益変更 / 定年制 |
裁判年月日 | : | 1981年3月13日 |
裁判所名 | : | 神戸地 |
裁判形式 | : | 判決 |
事件番号 | : | 昭和54年 (ヨ) 29 |
裁判結果 | : | 認容 |
出典 | : | 労働判例363号58頁/労経速報1087号3頁 |
審級関係 | : | |
評釈論文 | : | 国武輝久・季刊労働法122号125頁 |
判決理由 | : | 1 一般に就業規則は、当該事業場内での社会規範たるにとどまらず、法的規範としての性質を認められるに至っているものと解されるから、当該事業場の労働者は、就業規則の存在および内容を現実に知っていると否とにかかわらず、また、これに対して個別的に同意を与えたかどうかを問わず、当然にその適用を受けるものというべきであり、このことは新たに作成、変更された就業規則についても同様であって、個々の労働者においてこれに同意しないことを理由としてその適用を拒否することは許されないが、新たな就業規則の作成、変更によって、労働者の既得の権利を奪い、労働者に不利益な労働条件を一方的に課することは、それが合理的なものでない限り、信義則に反し、権利の濫用に当るものとして許されないというべきである(最高裁判所昭和四三年一二月二五日大法廷判決、民集二二巻一三号三四五九頁参照)。 右認定の事実関係に照らして考えれば、債務者会社は、分会が結成されたことにより、全自連の指導下で激しい分会活動が展開されるようになるのではないかと恐れ、分会の破壊ないし弱体化を狙って分会員に対する脱退勧奨等を行う一方(前記認定の交通労連結成の経過に照らせば、交通労連は債務者会社の影響のもとに結成されたものと認めることもできる。)、他方で、右のような分会活動に対処すべく、企業秩序の維持、強化を図って本件就業規則を制定したものと認めることができる。そして、これに、本件就業規則制定当時既にその定年を超え、あるいはこれを間近に控える従業員は債権者らのほかにはなく、そのうち債権者X1は債務者会社の脱退勧奨を拒否して分会にとどまっていたものであり、同X2はまだ分会には加入していなかったもののこれに加入する可能性のあったものであること(このことは、交通労連結成前には運輸部門従業員三五名中三二名もが分会に加入し、交通労連結成後は、同組合が債務者会社の影響下に結成されたものであるにもかかわらず、同債権者はこれに加入せず、後に分会に加入したことから認められる。)、その他債務者会社における定年制導入の必要性の程度等を合わせ考えれば、本件定年制もまた、人事の刷新、人件費の削減等経営の改善を目的としたものというよりは、むしろ前記分会対策の一環として、分会の弱体化を企図し立案、制定されたものと認めるのが相当である。 (中 略) (三)そして、旧就業規則を変更し、本件就業規則によって定められた本件定年制は、前記認定のとおり分会対策の一環として設けられたものである以上、合理性を有しないものといわざるをえない。 そうすると、債務者会社における本件定年制の制定は、信義則に反し、権利の濫用に当る。 |